ごあいさつ

主任研究者からのごあいさつ

松尾恵太郎

愛知県がんセンター がん予防研究分野
主任研究者 松尾 恵太郎

このたび、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の主任研究者を引き継ぎました松尾と申します。

J-MICC研究は文部科学省 がん特定領域研究の枠組により、2005年にがんを始めとする生活習慣病リスクに対する生活習慣を含む環境要因と個々人の遺伝子の差異の相互作用を検討する10万人規模の分子疫学コホート確立の目標を掲げ、研究参加者募集を開始しました。そして、2014年3月に当初目標の参加者10万人を達成しました。私自身も本研究の立ち上げに研究計画の立案の段階から加わっており、目標人数の達成に感動した事を覚えております。ひとえに、研究の趣旨に賛同頂いた参加者、J-MICCの各研究グループの皆様のご協力と文部科学省の継続的な支援の賜と考えています。

現在も一部サイトにおいて新たな研究参加者募集を続けていますが、本研究の殆どはコホート研究としての解析が可能な観察期間に到達しております。つまり、ようやくコホート研究として、参加者並びに国民の負託に応えるべく研究成果を出すフェーズに入ったと言えます。わが国で最初に立ち上がった大規模分子疫学コホートとしてその責任を果たせる状況になりました。

設立当初とは生活習慣、遺伝子多型等の分子疫学コホート研究を取り巻く環境は大きく変化しています。国内外の研究との連携が必須な時代となりつつあります。文科省オーダーメイド医療実現化プロジェクトによるバイオバンクジャパン(東京大学・理化学研究所)との連携に始まり、多目的コホート研究(国立がん研究センター)、東北メディカルメガバンク機構(東北大学)・いわてメディカルメガバンク機構(岩手医科大学)、愛知県がんセンター病院疫学研究(愛知県がんセンター)、鶴岡メタボロームコホート(慶應義塾大学)との連携による日本分子疫学コンソーシアム日本ゲノムコホート連携など、J-MICC研究のデータがより信頼性の高いエビデンスの創出に繋げられる環境が整いつつあります。

本研究は現在、文部科学省科学研究費 学術変革領域研究「学術支援基盤形成」の生命科学4プラットフォームの一つであるコホート・生体試料支援プラットフォーム(通称CoBiA)の一環として実施されています。J-MICC研究のデータや試料は、この研究の立ち上げに関わった研究者のみならず、文部科学省 科学研究費によって実施される研究に広く利用されるものとなっている事を意味します。これは、J-MICC研究が目指すがんを始めとする生活習慣病の予防に繋がるエビデンスの創出を加速するためにも重要な事だと考えています。

私自身は1999年に血液内科医からがん疫学の世界に身を投じました。本研究の初代主任研究者の浜島信之先生の指導の下、まさに黎明期であったがん領域における分子疫学研究の立ち上げに関わりました。対象者のリクルート、質問票の聴取、データ整理、血液検体の採取、処理、DNA抽出、遺伝子型の決定、関連解析の全ての実務のみならず研究体制構築に自ら関わり、自身の研究、国内外との共同研究を通じて、この分野を切り開いて来たと自負しています。かつて国外との共同研究では、本邦での分子疫学の基盤の弱さに忸怩たる思いを抱きもしましたが、その段階を越えたフェーズにようやく当研究は入りました。そして、このタイミングでJ-MICC主任研究者の大任を拝したことに身震いする思いです。関連する方々がこれまでJ-MICC研究に注いで来られたすべてを、日本人のみならず人類の健康に繋げるエビデンスに昇華すべく全力を投入していきたいと思っています。

2022年3月1日

主任研究者(2017-2022)からのごあいさつ

若井 建志

名古屋大学大学院医学系研究科予防医学
主任研究者 若井 建志

このたび前任の田中英夫より、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の主任研究者を引き継ぐことになりました若井と申します。

本研究は2005年に研究参加者募集を開始し、2014年3月末には参加者数が10万1千名を超え、目標の10万人を達成いたしました。これもひとえに、参加者ならびに御協力いただいた皆様のお蔭と感謝申し上げます。

現在は全国13の研究グループが共同して研究を続けており、主として、1) 研究ご参加後の生活習慣や身体の変化を調べるための「第二次調査」(研究ご参加から4~6年後に実施)、2) 参加者の中での病気の発生状況を調べる「追跡調査」を行っております。また新しい予防医学をめざして神奈川県立がんセンターの研究グループが、あらたに研究参加者募集を開始します。

J-MICC研究では、以下の3つを研究内容として掲げてまいりました。第1は「横断研究」すなわち研究参加者募集、あるいは「第二次調査」時点で、生活習慣、遺伝要因、健診データ・血液測定データの間の関連を検討するものです。これまで、研究参加時点の情報と400余りの遺伝子多型(遺伝情報の個人差)情報を組み合わせて検討し、26編(2016年12月現在)の英文論文を発表しています。さらに昨年度より、オーダーメイド医療の実現プログラムと共同で、より幅広い遺伝情報の個人差情報を用いた検討(Genome Wide Association Study)も開始いたしております。

研究内容の第2は「発病前診断研究」です。これは研究参加時点あるいは第二次調査の際に御提供いただいた血液を冷凍保存しておき、採血後早期(2~3年以内)に、がんその他の疾患(病気)にかかった人とかからなかった人の間で血液中の成分を比較することで、現在の医学で診断される以前に血液成分の変化をとらえ、疾患を早期診断することをめざすものです。この研究につきましても、検討の準備が整った疾患から順次開始する予定です。

第3に「追跡調査」、これは生活習慣、遺伝要因、健診データ・血液測定データなどと疾病発生・死亡との関係の検討です。どんな遺伝的体質を持つ人が、どのような生活習慣を持つと、疾病になりやすい・なりにくいかを検討し、病気のリスクを遺伝要因も考慮して個人単位で予測、予測されるリスクに応じた予防(生活習慣を変える)、検診(リスクに応じて方法や回数を変える)を検討するものです。そのためには長期にわたって、参加者の中での病気の発生を調べていく必要がありますが、3年後にはデータ分析が開始できると考えております。

以上の3つの研究内容は、J-MICC研究に従来から携わって来た研究者の努力はもちろんのこと、疫学、生物学、臨床医学、バイオインフォマティクスなど、様々な専門の多くの研究者の参加ではじめて達成しえるものです。J-MICC研究では、文部科学省新学術領域研究「コホート・生体試料支援プラットフォーム」の枠組において、研究参加者や関係者の御協力、そして国の研究費助成で蓄積された貴重な試料、データの分析に、より多くの研究者が関与できる体制作りを進めてまいります。

私はJ-MICC研究に当初から関わって参りましたが、研究開始当時、2024年度までの20年間の追跡調査は遠大な計画と感じたことを覚えております。それが既に折り返し点を過ぎ、試料・データを解析して成果を発表する段階に至りました。今回主任研究者を拝命したことを機に、初心に戻り、1つずつでも使命を達成したいと存じますので、今後とも御協力、御指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

2017年4月1日

J-MICCの近況と近未来

田中 英夫

愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部
主任研究者 田中 英夫

2005年に研究参加者の募集をはじめたJ-MICC研究は、2013年末日の時点で、9万8千人のリクルートを終え、目標の10万人まで、あと一息となりました。

昨年1月には、J-MICCの各研究サイトが保有する生体試料や測定データを、広く日本の医学研究に有効活用できるよう、外部の研究者からの利用申請計画を検討し、これを各研究サイトに斡旋・調整するための、共同研究促進委員会を発足させました。現在までに7件の申請があり、適宜、共同研究の形で計画の実現に向け、取り組んでいます。

また、ベースライン時の情報と400あまりの遺伝子多型(SNP)情報を組み合わせた横断研究については、慢性腎機能障害、肝機能異常、耐糖能異常などに関連するSNPsを多数同定し、この2年間で、12編の英文原著論文が発表されています。

今年度、特に目立った取り組みとしましては、バイオバンクジャパン(BBJ)との共同研究として、BBJが研究対象としていますがんをはじめとする47の疾患について、疾患関連SNPsを探索、同定するためのGenome Wide Association Study(GWAS)を実施することです。その際に使用します一般健常人コントロールとして、約1万4千人分のDNAを今年度末までにBBJに提供します。このGWAS共同研究は、日本人のがんを含む主な慢性疾患の遺伝的感受性を同定する、決定的に重要な研究になると思われます。そして、この1万4千人分のGWASの結果は、BBJからJ-MICC研究の中央事務局に返されます。当研究組織としては、この返されたGWASデータを有効に活用し、がんの個別化予防法の開発につながる研究を進めて行きます。また、これを外部の研究支援活動にも活用し、生体試料などと共に、日本の医学研究の基盤的インフラにしたいと考えています。

昨年5月には、東北メディカルメガバンク(MMB)の地域住民コーホートの募集が開始されました。2016年までの4年間で、宮城県、岩手県内で8万人をリクルートする予定とのことです。私達J-MICCは、日本国内にあるゲノムコーホート研究が互いに連携、協力して、将来の統合解析が可能となる環境を整えることが重要であると考えています。これまでに、山形分子疫学コホート研究や、慶応大学鶴岡メタボロームコホートとの連携を進めてきました。また、国立がん研究センターが運営する代表的なゲノムコーホート研究の1つであるJPHC-NEXTとは、将来の統合解析ができるよう、互いの調査票データの統合に向けた妥当性の検証作業を進めています。今後、東北MMBとの連携も視野に入れ、ゲノムコーホートでのオールジャパン体制が生まれるよう、研究者同士の交流と情報交換を一層進めていきます。

2014年1月吉日

主任研究者(2012-2017)からのごあいさつ

愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部
主任研究者 田中 英夫

私たちが取り組んでいる「日本多施設共同コーホート研究」は、我が国で最初の本格的な分子疫学コーホート研究です。

この研究は、集団を対象に、がんをはじめとする生活習慣病の発生に関わる要因はなにかを、生活環境と遺伝的要因の両方から探り、一人ひとりの体質に最も合った生活習慣病の予防法、つまりオーダーメード予防法の確立に役立つ情報を得ることを目的としています。英語の頭文字をとって“J-MICC Study(ジェイミック スタディ)”とも呼んでいます。

2005年から、ジェイミック スタディに参加協力してくださる35歳~69歳の方を募集しております。現在までに、全国の大学やがんセンターなどの共同研究施設13ヵ所で、約8万人の研究協力者を得ており、引き続き2013年3月まで、研究協力者の募集を行う予定です。また今年度は、研究参加から5年目を迎える方々に対して、順次、第2次調査を開始していきます。そして、上記の研究目的を達成するために必要な研究協力者の健康情報やがんをはじめとする生活習慣病の発症を把握する追跡調査を、2025年まで続ける予定です。さらに、追跡調査が終了した後の2035年まで、次世代の優れた研究者がデータの解析を実施できるように、関連資料を安全に管理していきます。

このようにコーホート研究は、ヒト集団を対象として調査を行う壮大な観察研究であり、その目的を達成するためには、長期的視点に立った十分な資金、時間、人手、組織力が必要となります。そのために最も重要なことは、国民の皆さんに、このような息の長い研究インフラの必要性をわかっていただき、次世代の日本人に、より健やかに生きられる社会を残そうという思いを繋いで行くことだと考えます。

J-MICC研究の今後に、皆さんの温かいご理解とご支援をお願いいたします。

2012年1月6日