J-MICC通信 創刊号 主任研究者からのごあいさつ

2005年10月18日
日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)主任研究者
名古屋大学大学院医学系研究科予防医学 教授 浜島信之

J-MICC Study のはじまり

2003年のわが国の総死亡は1,014,951人で、そのうちの30.5%(309,543人)が悪性新生物(いわゆる「がん」)による死亡です。1998年のがん発生率データに基づくと、84歳までに日本人男性は44.8%が、日本人女性は26.5%が悪性新生物に罹患すると推計されています。健康管理が行き届き、循環器疾患などの他の原因による死亡が減少しますと、悪性新生物による死亡割合は更に増加することになります。しかし、予防対策により悪性新生物の罹患年齢を遅らせることができれば、年齢別発生率を低下させ、社会の負担を低減させることができます。本研究は、がんを含めた生活習慣病の年齢別発生率低下に寄与する要因を探索確認し、疾病予防方法の確立に役立つ情報を生み出す目的で計画されました。

これまでの研究成果とこれからの課題

既にこれまでの疫学研究からいくつかの生活習慣病予防方法を私たちは知っています。がんについては、喫煙しないこと、多量飲酒しないこと、適度に運動すること、バランスのとれた食事をすること、身体を清潔に保つこと、がん発生に関連する病原体に感染しないことなどです。これらの方法はいずれも有効ながん予防法ですが、予防対策を展開するには、どのような人にどのような生活をしてもらうとどれだけがんが予防できるのかという、具体的で定量的な数値が必要となります。日本人に対するデータは必ずしも十分得られているわけではありませんし、最近の生活習慣の変化を考え合わせると、予防効果についての調査を継続して実施していることが必要です。

疾病予防と体質

ほとんどの人にとって、関心は自分自身の病気の予防であって、集団における疾病予防ではありません。英国および米国では喫煙率の低下に続き肺がん死亡率が低下し、喫煙者を減少させることが肺がん予防に有効であることがわかりましたが、多くの喫煙者は自分の喫煙と肺がんとの関係について必ずしも納得しているわけではありません。喫煙しても肺がんにならない人がいますし、喫煙しなくとも肺がんになる人がいるからです。しかし、もし疾病発生に関与する体質を特定することができれば、体質に基づいた疾病予防に多くの人が関心を持つことでしょう。

注目される遺伝子型

最近になり、環境要因に対する体質は遺伝的にかなり決定されていることがわかりはじめました。特定の遺伝子型を持つ人に環境要因の影響が強く現われるという現象(遺伝子環境交互作用と呼ばれる)がいくつか観察されたのです。発がん物質の代謝酵素、DNA修復酵素、受容体およびシグナル伝達物質、性ホルモン代謝酵素やその受容体など、発がん機構に関する物質が特定され、それら物質の機能や発現量に影響を与える遺伝子型が見つかってきました。これらの遺伝子の遺伝子型が組み合わさって、環境要因に対する体質を決めていると考えられます。

あなたのご協力がみんなの明日につながります

遺伝的体質に対する情報が蓄積されていく中で、生活習慣と共に体質に関する指標を用いた大規模な追跡調査(コーホート研究)がいくつかの国において計画実施され、わが国でもいくつかのコーホート研究が企画実施されています。本研究は、平成17年度の文部科学省科学研究費補助金「特定領域研究」の「分子疫学コーホート研究支援班」の支援により実施されているわが国を代表する大規模コーホート研究です。本研究には多数の研究者が参加し、生活習慣病の予防対策に役立つ情報を多く生み出すための努力をしています。また、私たちはこのホームページにあるように、本研究の内容を広く皆様にお伝えしながら実施していきます。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

平成17年10月10日

日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)主任研究者
名古屋大学大学院医学系研究科予防医学 教授
浜島信之