尿中ホルモンのバランスと糖尿病・高血圧の関係

研究ファイルNo.103:尿中コルチゾール/コルチゾン比レベルによって、糖尿病と高血圧の併存リスクが変わる?



 
 高血圧と2型糖尿病は、いずれも心血管疾患や腎障害などの重大な合併症リスクを高める疾患であり、両者が併存することでそのリスクはさらに増大します。実際、糖尿病患者さんの20〜60%が高血圧を併発しているとされ、治療抵抗性のケースも少なくありません。

 体の中では、「コルチゾール(活性型)」と「コルチゾン(非活性型)」というホルモンがバランスをとっており、ストレスや炎症、血圧の調整に関わる「グルココルチコイド」というホルモンの一種です。この2つの比率(=尿中コルチゾール/コルチゾン比)は、11β-HSDという酵素の働きを反映しています。この酵素が活発だと、コルチゾンがコルチゾールに多く変わり、血圧を上げる「ミネラルコルチコイド受容体(MR)」を強く刺激すると考えられています(図1)。つまり、この比率が高い人は、血圧が上がりやすい体質かもしれないということです。

図1.ミネラルコルチコイドの活性化に起因する糖尿病と高血圧

佐賀大学マスコットキャラクター‘かっちーくん’

 この研究では、「尿中のコルチゾール/コルチゾン比が、糖尿病と高血圧の関係に影響しているのでは?」という疑問をもとに調査が行われました。対象となったのは、J-MICC研究(日本多施設共同コホート研究)の佐賀地域の40~69歳の6931人の地域住民です。この方たちの尿サンプルを集め、液体クロマトグラフィーと質量分析を用いてコルチゾールとコルチゾンを測定しました。

 年齢や性別、生活習慣(たばこ、食事、運動など)、体型や血液の状態などの影響を考えた上で、高血圧の併存しやすさをオッズ比で求めました。

 その結果、糖尿病の人は、そうでない人より37% 高い確率で高血圧 を併存していました(オッズ比1.37)。さらに、尿中のコルチゾール/コルチゾン比が高い人では、高血圧を併存するリスクが2倍以上とかなり高くなっていました。一方で、比率が中程度の人では糖尿病と高血圧の関連は見られず、比率が低い人ではこの関連が比較的穏やかでした(図2)。このことは、グルココルチコイド代謝の個人差が、糖尿病における高血圧リスクと関連している可能性を示唆します。

図2.コルチゾール/コルチゾン比による糖尿患ではない人と比較した糖尿病の人の高血圧

 本研究により、尿検査で得られるコルチゾール/コルチゾン比という簡単な指標によって、糖尿病の人が高血圧になりやすいかどうかを予測できる可能性が出てきました。このことは、通常の治療では効果が出にくい高血圧を持つ患者を早期に見つけて、MR拮抗薬などの効果的な治療につなげる助けになります。

 この研究の成果は、特にアジアの高齢者における心血管疾患の予防にとって重要です。今後、長期的な追跡研究を行うことで、より具体的な治療への応用が期待されています。

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