研究ファイルNo.102:運動時間を増やすと生物学的年齢の進行(老化)を遅らせる?
【はじめに】
「年齢」とは通常、暦(こよみ)上の年数を指しますが、私たちの体内では一人ひとり異なるスピードで老化が進行しています。これは「生物学的年齢」と呼ばれ、同じ暦年齢でも健康状態や老化の進み具合が異なることがあります。この生物学的年齢を測定するための新しい手法として、「エピジェネティック・クロック」が近年注目されています。エピジェネティック・クロックは、DNAを構成するACGTの4種類の塩基のうち、CとGが並んだ場所(CpGと呼びます)に小さな分子であるメチル基(-CH3)が結合するDNAメチル化という化学的修飾のパターンを解析することで、実際の体の状態を反映した年齢を推定する方法です。
【方法】
今回の研究では、2005〜2007年にJ-MICC研究(佐賀地区)のベースライン調査に参加した40~69歳の一般住民867名(男性475名、女性392名)を対象に、このエピジェネティック・クロックと日常の運動や座りがちな生活(座位時間)との関係を調べました。特に、運動の時間と強度がどのように老化に影響を与えるのかを分析することで、運動習慣が健康維持にどのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的としました。
これまでに行われてきた研究では、自己申告による運動量を用いることが一般的でしたが、そうした主観的なデータには不正確さが伴います。そこで、本研究では、客観的な運動量を評価できる小型の活動量計による測定データを解析に用いました。
本解析では、DNAメチル化情報を基に、老化関連の疾患リスクを反映する「PhenoAge」と、寿命予測に関連する「GrimAge」という2つのエピジェネティック・クロックの指標を用いて、生物学的年齢を推定しました。
統計解析では年齢、性別、喫煙習慣、飲酒習慣、教育歴、DNAメチル化の測定手法、活動量計の装着時間や覚醒時間等を共変量として回帰分析を行いました。
【結果】
活動量計測定データの分析から、全体の運動量が増加すると、PhenoAgeとGrimAgeのいずれにおいても生物学的年齢が実年齢よりも低くなり、逆に、座る時間の多い生活をしていると、生物学的年齢が実際の年齢よりも高くなる傾向が認められました。また、座る時間を軽い運動に置き換える、あるいは軽い運動を中高強度の運動に置き換えた場合に、生物学的年齢の加齢が抑えられる傾向が認められました(図1)。
一方、自己申告による運動量データを使った同様の解析では、生物学的年齢への影響は明確に示されませんでした。この結果は、自己申告データが客観的な情報でないため実際の運動量を正確に反映していないことを示していると考えられます。
【結論】
本研究の結果、日常生活での運動を増やし、座りがちな時間を減らすことで、生物学的年齢の進行(老化)を遅らせ、健康維持につながることが示唆されました。
出典:
- Nagata M, Komaki S, Nishida Y, Ohmomo H, Hara M, Tanaka K, Shimizu A. Influence of physical activity on the epigenetic clock: evidence from a Japanese cross-sectional study. Clin Epigenetics. 16(1): 142, 2024