研究ファイルNo.111:コーヒーと腎機能の関係は遺伝子で決まる?
背景
コーヒーは世界中で広く飲まれている飲料であり、心血管疾患、がん、2型糖尿病などのリスクを下げる可能性があることが報告されています。腎機能は高血圧や高血糖といった心血管代謝系のリスク因子と密接に関連しているため 、コーヒーが腎機能に対しても保護的に働く可能性が考えられますが、先行研究の結果は一貫しておらず、コーヒーと腎機能の関係について結論が出ない状況が続いていました。
私たちは、個人のカフェイン代謝能力やコーヒー摂取行動に影響を与える「遺伝的多型」がコーヒーと腎機能の関係に影響を及ぼしているのではないかと仮説を立てました。遺伝的多型とは、人それぞれの体質の違いを生み出す、DNAの塩基配列の個人差のことです。この個人差によって病気へのかかりやすさや、薬の効きやすさ(今回の場合、コーヒー摂取行動やカフェイン代謝のしやすさ)などに違いが生まれます。
本研究ではコーヒーに関連する3つの遺伝子多型に着目しました。1つ目はカフェイン代謝酵素に関わるrs762551(CYP1A2)、2つ目はその酵素の制御に関わるrs4410790(AHR),3つ目は習慣的なコーヒー摂取量と関連するとされるrs2074356(HECTD4)です。
方法
本研究では、J-MICC研究のデータを用いて、先述の3つの遺伝的多型rs762551(CYP1A2)、rs4410790(AHR)、rs2074356(HECTD4)を考慮してコーヒーと腎機能の関係を検討しました。
35~69歳の日本人7,468人(男性3,515人、女性3,953人)を対象にして、遺伝的型ごとの集団(コーヒー摂取が多くなる遺伝子型、中程度になる遺伝子型、少なくなる遺伝子型) に分け、集団ごとに、年齢、性別などの交絡因子を調整し、慢性腎不全(CKD)をアウトカムとした多変量ロジスティック回帰分析を行いました。また同様に、腎機能の指標であるeGFRをアウトカムとして多変量線形回帰分析を行いました。
結果

解析の結果、コーヒー摂取が多くなる遺伝子型を持つ人(rs2074356(HECTD4)AA型)においてコーヒーの摂取量が多いほどCKDの有病率が低いという結果が得られました。またrs762551(CYP1A2)、rs4410790(AHR)ではカフェイン代謝速度が中くらいの遺伝子型の人(ヘテロ型)においてコーヒー摂取とCKDの有病率の間に負の関連がみられました(図1)。

一方で、カフェイン代謝が遅いとされるrs4410790(AHR)TT型において、コーヒー摂取は腎機能の低下と関連(eGFRと負の関連)がみられました(図2)。
結論
本研究の結果から、コーヒーと腎機能の関係には、コーヒー摂取行動やカフェイン代謝に関連する遺伝的多型が影響することが示唆されました。
しかし、本研究では、コーヒーに含まれるカフェイン以外の成分やその他の遺伝的多型について考慮できていないため、さらなる検討が必要です。
出典
- Unohara T, Fujii R, Watanabe T, Matsuura A, Torii Y, Kita K, Ishizu M, Hara M, Nishida Y, Nagayoshi M, Matsunaga T, Okada R, Kubo Y, Tanoue S, Hidaka Y, Nishiyama T, Nakagawa-Senda H, Koyama T, Watanabe I, Kuriki K, Takashima N, Kondo K, Nakatochi M, Momozawa Y, Tamura T, Matsuo K; J.-MICC Study group. Coffee intake, genetic variants, and chronic kidney disease: a cross-sectional analysis of the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) study. Eur J Nutr. 2025 Oct 15;64(7):301.
