がんリスクにおける代謝表現型の意義

研究ファイルNo.101:肥満と代謝異常の組み合わせでがんリスクが変わる?

 肥満は世界中で深刻な公衆衛生上の問題の一つです。肥満を抱える人は世界、日本で増え続けています。また、肥満はその他の代謝異常(高血圧、高血糖、脂質異常)とともにメタボリック症候群を形成し、循環器疾患やがんのリスクと関係することが知られています。一方で、肥満はあるけれど、その他の代謝異常は無く健康な人もいれば、肥満はないけれど、その他の代謝異常を抱えて不健康な人がいることが注目されています。このような肥満の有無と、その他の代謝異常の有無による分類を「代謝表現型」と言います。

 代謝表現型それぞれは遺伝的背景も含めて病態に違いがあることが示唆されています。代謝表現型と全がん、部位別がん罹患との関係性について、ヨーロッパにおける研究がいくつか知られています。一方で、肥満の有病率は少なく、かつ肥満の健康への影響は大きいことが示唆されているアジアでは、十分な検討はなされていません。また代謝表現型は通常、検査データを用いて定義づけを行いますが、一人ひとり検査を行うことは時間とコストがかかります。自己申告の既往歴の情報で定義することができれば、より簡便であり大規模な研究を行う上で有用です。本研究では代謝表現型とがんとの関係性について検査データ、自己申告の既往歴の情報それぞれで定義した代謝表現型を用いて検討しました。

 J-MICC研究に参加された方のうち、解析に必要な情報がそろっている35歳から69歳までの方のデータの前向きコホート解析を行いました。検査データによる代謝表現型を用いた解析では25,357人、自己申告の情報による代謝表現型を用いた解析では53,042人が対象となりました。対象者の生活習慣に関する情報は、質問票によって評価しました。検査データを用いたそれぞれの代謝異常(高血圧、高血糖、中性脂肪高値、HDLコレステロール低値)の定義づけでは、メタボリック症候群の国際的な基準(Joint Interim Statement Criteria)を用いました。肥満についてはウエスト周囲径の代わりにBMIを用いて25以上であれば肥満としました。自己申告による定義づけでは、検査データの代わりに、質問票の既往歴(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の各項目を代謝異常として、BMIは質問票の身長、体重から計算したBMIを用いました。代謝表現型は、肥満の有無とその他の代謝異常の有無で、代謝的に健康/不健康な肥満(MHO/MUHO)、代謝的に健康/不健康な正常体重(MHNW/MUNW)の4つに分類しました。統計解析は、年齢、性別、研究サイト、教育レベル、喫煙、飲酒、身体活動量、野菜、果物、みそ汁の摂取量を調整したCox比例ハザードモデルを用いた解析を行いました。

 検査値で定義した代謝表現型の解析では8.0年(中央値)の追跡期間で1,584人が、自己申告の情報で定義した代謝表現型の解析では約9.1年(中央値)の追跡期間で4,467人ががんに罹患しました。検査値および自己申告の情報で定義した代謝表現型を用いた解析の両方において、代謝的に不健康な肥満とがん罹患との有意な関連が確認されました(図1)。さらに、自己申告の情報で定義した代謝表現型を用いて、代謝表現型と部位別がん罹患との関係について検討しました。その結果、代謝的に健康/不健康な肥満と大腸がん、肝臓がん、乳がん、代謝的に不健康な正常体重とすい臓がん、代謝的に不健康な肥満と子宮体がんに有意な正の関連がみられました(図2)。

 以上の結果から、日本人成人において、代謝表現型は全がん、部位別がん罹患の重要なリスク要因の1つであることが示唆されました。対象者の方の遺伝的背景も含めた解析など、各代謝表現型とがんとの関係性についてさらなる検討を行っていきたいと考えています。

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