研究ファイルNo.97:私たちに身近な小魚を食べることは将来の死亡リスクに影響を与えているか
日本人にはシシャモ、しらすなどの小魚を食べる習慣があります。このような小魚は「頭・内臓・骨を丸ごと食べることができる」という特徴があり、これらを捨てて身だけを食べる一般的な魚とは異なる食習慣で摂取されます。魚の頭・内臓・骨には、ビタミンAやカルシウムなどの疾病予防に関わる栄養素が多く含まれており、これらを一度に摂取できる小魚は、現代の私たちに不足しがちな栄養素の大切な摂取源と考えられています。小魚に含まれる栄養素の摂取は、血圧を低下させて動脈硬化を防いだり、一部のがんを予防したりすることが報告されており、ヒトの疾病予防における役割があらためて注目されています。また、深刻な栄養不足に悩む発展途上国において、手ごろな価格の小魚が重要な栄養源になりうると指摘する報告もあります。
先行する国内外の疫学研究は、魚の摂取習慣が全死亡、循環器疾患死亡、一部のがん死亡のリスクを下げる可能性を示しています。しかし、小魚の摂取に着目して死亡リスクとの関連を調べた研究はほとんどありません。そこで本研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study)の参加者の追跡調査データにもとづいて、小魚摂取頻度と死亡リスクとの関連を評価しました。
研究対象者はJ-MICC Studyのベースライン調査の参加者のうち、分析に必要なデータがすべてそろっており、がん・循環器疾患の既往がない80,802人(男性34,555人、女性46,247人)で、平均追跡期間はおよそ9年です。小魚の摂取頻度は、食物摂取頻度調査票によって調査し、死亡リスクに影響を与える参加者の年齢、喫煙・飲酒習慣、BMI、各種栄養素摂取量などを統計学的に調整した上で分析を行いました。
図1は女性の小魚摂取頻度と死亡リスクとの関連を示しています。女性の全死亡リスクは、小魚をほとんど摂取しない群に比べて、1–3回/月摂取群で0.68倍、1–2回/週摂取群で0.72倍、3回/週以上摂取群で0.69倍に低下し(傾向性P値 = 0.041)、がん死亡リスクは1–3回/月摂取群で0.72倍、1–2回/週摂取群で0.71倍、3回/週以上摂取群で0.64倍に低下しました(傾向性P値 = 0.027)。循環器疾患死亡リスクについても、同様の傾向が観察されましたが、統計学的に有意ではありませんでした(傾向性P値 = 0.486)。
小魚をたくさん食べる人は、他の魚もたくさん食べる傾向があるため、一般的な魚の摂取頻度(焼き魚、煮魚、刺身など)を統計学的に考慮した分析も行いましたが、本関連に大きな影響は見られませんでした。このことは小魚摂取が他の一般的な魚の摂取とは独立して死亡リスクの低下に関わっていることを示唆しています。
図2は男性の小魚摂取頻度と死亡リスクとの関連を示しています。男性においても、全死亡とがん死亡のリスクが低下する傾向が観察されましたが、統計学的に有意ではありませんでした(それぞれ傾向性P値 = 0.391, 0.161)。小魚摂取頻度と循環器疾患死亡リスクとの間には明らかな関連はありませんでした。また一般的な魚の摂取頻度を考慮した分析においても、本関連に大きな影響は見られませんでした。
本研究は、小魚をたくさん食べる習慣が女性の全死亡およびがん死亡のリスクを低下させる可能性を示しました。私たちの普段の食事に小魚を多く取り入れることの重要性を提案しています。J-MICC Studyは追跡調査を続けることで、解析できる症例数が多くなり、今後はより細かい死因やがん部位別での評価が可能になります。小魚摂取が具体的にどの部位のがん死亡もしくはがん罹患の低下と関連するのか、また他研究の一般集団でも本関連の再現性が確認されるのか、さらには小魚の摂取が死亡リスクを下げるメカニズムの解明が期待されます。
出典:
- Chinatsu Kasahara, Takashi Tamura, Kenji Wakai, Yudai Tamada, Yasufumi Kato, Yoko Kubo, Rieko Okada, Mako Nagayoshi, Asahi Hishida, Nahomi Imaeda, Chiho Goto, Jun Otonari, Hiroaki Ikezaki, Yuichiro Nishida, Chisato Shimanoe, Isao Oze, Yuriko N. Koyanagi, Yohko Nakamura, Miho Kusakabe, Daisaku Nishimoto, Ippei Shimoshikiryo, Sadao Suzuki, Miki Watanabe, Etsuko Ozaki, Chie Omichi, Kiyonori Kuriki, Naoyuki Takashima, Naoko Miyagawa, Kokichi Arisawa, Sakurako Katsuura-Kamano, Kenji Takeuchi, and Keitaro Matsuo for the J-MICC Study Group. Association between consumption of small fish and all-cause mortality among Japanese: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Public Health Nutr. 2024; 27(1): e135