日本人における炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連

研究ファイルNo.94:日本人の炭水化物・脂質の摂取は将来の死亡リスクに影響を与えているか

低炭水化物食(いわゆるローカーボ食)や低脂質食は、体重減少や血糖値の改善などを促し、私たちの生活習慣病の予防にとって有用ではないかと考えられています。しかし、このような食習慣がもたらす長期的な生命予後(長生きできるかどうか)についてはいまだ明らかではありません。

欧米をはじめとする諸外国における近年の疫学研究は、極端な炭水化物と脂質の摂取習慣が死亡リスクを高めることを示唆しており、低炭水化物食・低脂質食がもたらす「短期的な効果」と「長期的な生命予後」のあいだに大きな矛盾があるため、国際的な関心が高まっています。しかし、欧米人よりも炭水化物摂取量が多く、脂質摂取量が少ない日本人を含む東アジア人での知見はほとんどありません。

そこで本研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study)の参加者の追跡調査データにもとづいて、炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価しました。

研究対象者は、J-MICC研究のベースライン調査(第一回目調査)に参加された方のうち、分析に必要なデータがすべて整っており、がん・心血管疾患の既往歴を有しない男性34,893 名および女性46,440名です(平均追跡期間はおよそ9年)。研究対象者の一日あたりの炭水化物・脂質摂取量(g)は食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー比率(%)で表しました(炭水化物1gは4kcal、脂質1gは9kcalのエネルギーを生成します)。関連を評価するにあたって、死亡リスクに大きな影響を与える喫煙や飲酒などの要因を分析モデルで考慮しました。

図1は男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を示しています。50–<55%群(基準群)を1としたとき、低炭水化物摂取群(<40%群)の全死亡リスクは1.59倍(傾向性P値 = 0.002)、がん死亡リスクは1.48倍(傾向性P値 = 0.071)に増加しました。また中程度の低炭水化物摂取群(45–<50%群)では、循環器疾患死亡リスクが2.32倍に増加しました(傾向性P値 = 0.002)。精製炭水化物摂取(米飯、パン、めん類、和菓子、洋菓子)と非精製炭水化物摂取に分けて分析したところ、炭水化物摂取量全体での分析結果と同様の傾向を認めました。

図2は女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を示しています。女性では本関連における比例ハザード性がやや認められなかったため(炭水化物摂取の死亡リスクへの影響が一定ではなく時間経過によってやや変化したため)、追跡期間を5年(追跡期間の中央値の約半分)に区切って分析を行いました。追跡期間が5年以上の場合、50–<55%群(基準群)を1としたとき、高炭水化物摂取群(≥65%群)で全死亡リスクが1.71倍に増加し(傾向性P値 = 0.005)、がん死亡リスクでも同様の傾向を認めました(傾向性P値 = 0.003)。追跡期間が5年未満の場合、45–<50%群と≥60%群で循環器疾患死亡リスクが増加しました(それぞれ4.04倍、3.46倍)。精製炭水化物と非精製炭水化物に分けた分析では、明らかな関連は観察されませんでした。

図3は男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連を示しています。20–<25%群(基準群)を1としたとき、高脂質摂取群(≥35%群)でがん死亡リスクは1.79倍、循環器疾患死亡リスクは脂質摂取量とともに増加しました(傾向性P値 = 0.020)。脂質摂取の質を考慮するため、飽和脂肪酸摂取(肉類、乳製品、加工食品に多く含まれる脂質)と不飽和脂肪酸摂取(魚、植物油、ナッツ類に多く含まれる脂質)に分けて分析したところ、不飽和脂肪酸の摂取量の少なさが全死亡リスクとがん死亡リスクを高めていました。

図4は女性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連を示しています。脂質摂取量が増加するほど全死亡リスクとがん死亡リスクが減少する傾向が観察されました(それぞれ傾向性P値 = 0.054, 0.058)。飽和脂肪酸摂取と不飽和脂肪酸摂取に分けて分析したところ、飽和脂肪酸の摂取量の増加が全死亡リスクとがん死亡リスクを低下させる傾向にありました。

本研究は、喫煙や飲酒などの死亡リスクに大きな影響を与える要因を統計学的に考慮したうえで、日本人の極端な炭水化物摂取および脂質摂取が「長期的な生命予後」に影響を与える可能性を示しました。男女一律に「ローカーボ食またはハイカーボ食がよい」、「脂質摂取はできるだけ控えたほうがよい」とする食事習慣の見直しを提案しています。J-MICC研究の追跡調査を続けることによって、解析可能な症例数が多くなることから、今後はより細かな死因ごとの検討やがん部位別での評価が可能になります。また他研究による日本人一般集団での本関連の再現性、分子生物学的なメカニズムの探索と解明が期待されます。

出典:

  • Tamura T, Wakai K, Kato Y, Tamada Y, Kubo Y, Okada R, Nagayoshi M, Hishida A, Imaeda N, Goto C, Ikezaki H, Otonari J, Hara M, Tanaka K, Nakamura Y, Kusakabe M, Ibusuki R, Koriyama C, Oze I, Ito H, Suzuki S, Nakagawa-Senda H, Ozaki E, Matsui D, Kuriki K, Kondo K, Takashima N, Watanabe T, Katsuura-Kamano S, Matsuo K; for the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study. Dietary carbohydrate and fat intakes and risk for all-cause, cancer, and cardiovascular disease mortality in the Japanese population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. J Nutr 2023; 153: 2352–2368.
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