日本人集団における葉酸代謝のゲノムワイド関連研究が明らかにした、MTHFR遺伝子多型の血中ホモシステイン濃度に与える影響

研究ファイルNo.93:日本人における葉酸代謝のゲノムワイド関連研究

葉酸は、ブロッコリーなどの緑黄色野菜や緑茶に含まれるビタミンの一種で、その代謝経路は、人間の遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)の合成やそのメチル化に重要な役割を果たしています。その代謝酵素の1つであるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)をコードする遺伝子の配列の多様性であるMTHFR C677T遺伝子多型は、冠動脈疾患や脳卒中などの心血管病のリスクと関連することが報告されています。また葉酸の代謝産物である血中のホモシステイン(Hcy)値は、高血圧や動脈硬化のリスクとの関連が報告されており、高Hcy血症は動脈硬化のリスク因子と考えられています。一方で、ヒトの病気のリスクにかかわる遺伝子多型を網羅的に解析する手法をゲノムワイド関連研究(GWAS)といい、近年様々な病気や血液検査値に関するGWASが盛んに行われています。

これまでに血中の葉酸代謝物であるHcy、葉酸、ビタミンB12値に関するGWASは、欧米では既にいくつか行われていますが、わが国では大規模なGWASの報告はまだありませんでした。そこで私たちは、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)のGWAS参加者約1万4千名のうち、血漿中の葉酸代謝物であるHcy、葉酸、ビタミンB12値のデータを有する約2,200名のデータを用いて、GWASと遺伝子-環境交互作用(=遺伝子多型と生活習慣の相互作用)の解析を行いました。その結果、血漿中のHcyと統計学的に有意に関連する遺伝子座位として、MTHFR、活性酸素生成酵素をコードするNOX4NADPH oxidase 4)、細胞内老廃物の仕分けに関するDPEP1-CHMP1ADipeptidase 1-Charged multivesicular body protein 1A)遺伝子座が見出されました(図1)。また遺伝子-環境交互作用の解析では、血中Hcy値が高くなりやすいMTHFR 677 T/T 遺伝子型の人の身体活動度が高い(=運動する)と、MTHFR遺伝子による血中Hcy高値に対する悪影響が緩和される、との結果が得られました。つまり、運動することで高Hcy血症を予防できる可能性が示唆されました(図2)。今後、より大規模な研究や、心血管疾患リスクとの関連が検討されることにより、MTHFR遺伝子多型に基づく心血管疾患などの動脈硬化性疾患の効果的予防法につながることが期待されます。

図1.血漿ホモシステイン(Hcy)値のマンハッタン・プロット

図2.MTHFR遺伝子多型に基づく身体活動による動脈硬化予防の可能性

出典:

  • Tsukamoto M, Hishida A, Tamura T, Nagayoshi M, Okada R, Kubo Y, Kato Y, Hamajima N, Nishida Y, Shimanoe C, Ibusuki R, Shibuya K, Takashima N, Nakamura Y, Kusakabe M, Nakamura Y, Koyanagi YN, Oze I, Nishiyama T, Suzuki S, Watanabe I, Matsui D, Otonari J, Ikezaki H, Katsuura-Kamano S, Arisawa K, Kuriki K, Nakatochi M, Momozawa Y, Takeuchi K, Wakai K, Matsuo K. GWAS of folate metabolism with gene-environment interaction analysis revealed the possible role of lifestyles in the control of blood folate metabolites in Japanese – the J-MICC Study. J Epidemiol 2023 (in press).
カテゴリー: 遺伝子多型 パーマリンク