腎機能と癌リスクの関連及び、腎機能が他の発癌リスク因子に及ぼす影響

研究ファイルNo.92:腎機能が低下するほど喫煙による発癌リスクが高くなる

慢性腎臓病は日本の成人の約7人に1人が有する国民病です。これまでの研究から腎機能低下が癌罹患に関連するとの報告がありましたが、全ての研究結果で一致はしておらず、日本人を対象とした研究は限られていました。また、腎機能低下が他の発癌リスク因子(喫煙、飲酒、食習慣、肥満など)に及ぼす影響についても分かっていませんでした。

本研究では、J-MICC研究の参加者のうち、登録時に癌罹患歴がなく、登録時の腎機能データと追跡データを有する約5.5万人について、登録時のeGFRにより、10〜29、30〜44、45〜59、60〜74、75〜89、≧90 ml/min/1.73m2の6群に分けて、癌罹患、癌死亡について比較しました。さらに、eGFR<60、≧60ml/min/1.73m2の2群に分けて他のリスク因子の発癌リスクの大きさを比較し、腎機能により違いが見られた因子についてはさらに詳しく調査しました。

まず癌罹患についてですが、約9.3年の観察期間に約4,300人(全体の約8%)の参加者が癌と診断されました。eGFR 60〜74 ml/min/1.73m2の人と比較して、eGFR中等度低値(30〜44 ml/min/1.73m2)は36%高い発癌リスク、eGFR高値(≧75 ml/min/1.73m2)は9〜18%高い発癌リスクに関連し、eGFRは低くても高くても発癌リスクであるというU字型の関連であることがわかりました(図1)。

次に癌死亡の関連についてですが、観察期間に約1,600人(全体の約3%)が癌により死亡しました。eGFR 60〜74 ml/min/1.73m2と比較して腎機能の低下は、癌死亡と統計学的に有意な関連は見られませんでしたが、本研究に含まれるeGFR<45 ml/min/1.73m2の人の参加者数および癌死亡者数が比較的少ないため、これについては本研究結果から結論づけることはできないと考えられます。一方、eGFR≧75 ml/min/1.73m2は高い癌死亡リスクに関連しました。この理由は明らかになっていませんが、筋肉量の少ない痩せた人ほどeGFRが高くなりやすいことから、そのような人で癌死亡リスクが高いという可能性や、抗癌剤の代謝が速いため十分な治療効果が得られにくいといった可能性が考えられます。

さらに腎機能の保たれている人(eGFR≧60 ml/min/1.73m2)と低下している人(eGFR<60 ml/min/1.73m2)の2つのグループ間で他の癌のリスク因子について比較すると、喫煙、癌の家族歴は腎機能が低下している人でより大きな発癌リスクに関連していました。eGFRを連続値として詳しく評価すると、喫煙は腎機能の保たれた人でも発癌リスクですが、eGFR全域にわたり、腎機能が低下するほどそのリスクは大きくなっていました(図2)。この理由として、タバコに含まれる発癌物質の一部は腎機能が低下していると排泄されにくく体内に蓄積しやすいために強く影響が出ることなどが考えられます。

このように今回の研究から、eGFRの中等度低値と高値は高い癌罹患リスクに関連し、eGFR高値は高い癌死亡リスクにも関連するという結果が示されました。また、腎機能が低下するほど喫煙による発癌リスクが高くなることが示唆されました。これらの結果は、発癌リスクの高い人に積極的にスクリーニング検査を行うなどの医療の最適化や、特に腎機能の低下している人に重点的に禁煙の支援を行うなどの施策策定に役立てることができます。

出典:

  • Kurasawa S, Imaizumi T, Maruyama S, Tanaka K, Kubo Y, Nagayoshi M, Ikezaki H, Suzuki S, Koyama T, Koriyama C, Kadota A, Katsuura-Kamano S, Kuriki K, Wakai K, Matsuo K. Association of kidney function with cancer incidence and its influence on cancer risk of smoking: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Int J Cancer. 2023; 153: 732-741.
カテゴリー: がん, たばこ, 腎臓病 パーマリンク