食品群摂取量と高感度CRPに関する横断的検討

研究ファイルNo.100:どの食品群が慢性炎症に影響するか?


 慢性炎症は体の免疫反応が持続した状態であり、慢性炎症を持つ方では糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がんや死亡のリスクが高くなることが分かっています。そして、健康的な食事パターン(地中海式食事法、 Dietary Approaches Stop Hypertension [DASH食]など)を取っている方では、慢性炎症の状態になりにくいことが示されています。これらの健康的な食事パターンは、野菜、果物、魚、ナッツ、全粒穀物を多く食べ、赤身肉(牛肉や豚肉)、加工肉(ハムやベーコン)、精製した穀物の摂取を控えるという特徴を持ちます。しかし、これらの食事パターンに含まれる食品群のうち、いずれが慢性炎症に影響するのかについて十分なことが分かっていませんでした。そこで私たちは、先行研究の対象となった食品群のいずれが、慢性炎症の指標である高感度C反応性タンパク(高感度CRP)に影響するのかを横断研究により検討しました。

 今回の検討では、J-MICC研究のベースライン調査に参加された滋賀、福岡、九州・沖縄地区の対象者13,648名(35−69歳)のデータを用いました。検討対象とした食品群は米飯、パン、赤身肉、加工肉、鶏肉、乳製品、魚、野菜、果物、ナッツ、コーヒー、緑茶です。統計解析では線形回帰モデルを用い、共変量(食品群と慢性炎症の両方に影響すると考えられる要因)とともに食品群を互いに調整することで、食品群間の相関による影響を取り除いた効果(各食品群が慢性炎症に及ぼす独立した効果)を推定しました。

 解析の結果、男性では加工肉、魚を多く摂取することは高感度CRP濃度上昇と関連した一方(第1四分位と比較して、第4四分位でそれぞれ12%と13%の上昇)、ナッツを多く摂取することは17%の濃度低下と関連していました(図1)。女性では、加工肉と果物の摂取が高感度CRPの濃度上昇と関連した一方(それぞれ11%と19%の上昇)、パン、野菜、ナッツ、緑茶の摂取は濃度低下(それぞれ11%、14%、10%、12%の低下)と関連することが示されました(図2)。

図1. 男性における食品群摂取量(エネルギー調整後の残差の四分位)と高感度CRPとの関連

縦軸は第1四分位と比較した時の各カテゴリーでの高感度CRPの濃度比

図2. 女性における食品群摂取量(エネルギー調整後の残差の四分位)と高感度CRPとの関連

 以上の結果をまとめると、加工肉、野菜、ナッツ、緑茶については先行研究と同様の結果が得られました。それに対して、魚摂取による高感度CRP濃度上昇および果物による濃度低下という結果は、食事パターンに着目した先行研究の知見とは逆の結果となりました。このことから、食事パターン研究の結果に基づいて個別の食品群摂取を推奨した場合、必ずしも慢性炎症の予防につながらない可能性が示されました。一方、本研究は一時点で食品群摂取量と慢性炎症の関連を検討した横断研究であり、ある時点での食品群摂取量がその後の慢性炎症にどう影響するかについては、コホート研究などで検証する必要があります。また、慢性炎症への影響度に基づいて食品群摂取量を重みづけするスコア(Dietary Inflammatory Indexなど)がその後の心筋梗塞、がんや死亡と関連することが、先行研究によって示されています。今後は、本研究の結果などに基づき、アジア人の生活習慣により合致したスコアが開発されることが期待されます。

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