日本人中高年における簡易食物摂取頻度質問票(FFQ)の再現性と妥当性(食品群別摂取量)

研究ファイルNo.108:J-MICC研究が使っているFFQによる食品群別摂取量の評価は全国11地区において妥当であった。

背景

 J-MICC研究のようなコホート研究では、参加者のふだんの食事量を把握する必要がありますが、数千人、数万人という大規模集団では、ひとり1人が食べた物のすべてを把握する食事記録法では、労力や時間がかかるので現実的ではありません。そこで、J-MICC研究では、主な食物だけに絞って、およその摂取回数をたずねる47項目の質問票を使って、大まかな摂取量を調査しています。このような質問票を、FFQ(Food frequency questionnaire: 食物摂取頻度質問票)と言います(図1)。FFQの形式は択一式で、例えば「卵は」、「週1-2回?」、「週5-6回?」など、摂取頻度を直感的に答えてもらいます。

 しかし、1年分の摂取状況を正確に思い出して、実際の摂取回数を答えられる人は、なかなかいないので、FFQへの回答に基づく食事摂取量はあくまでも推定値です。そのため、コホート研究でFFQを使う時には、そのFFQの推定値が、どの程度、正確なのかを確かめる研究、つまり妥当性研究が必要になります。さらに、再現性研究といって、1年後に同じFFQを同じ人にやってもらう検証も必要です。質問のタイミングによって、回答が変わってしまうので、このFFQでは、どの程度の再現性があるかを調べておくのです。

 J-MICC研究は、東海地区の集団で良好な再現性と妥当性が実証されたFFQを使って追跡調査を始めたのですが、この研究では、もう一度、国内11カ所のJ-MICC研究の対象地域に拡大して、食品群(例えば、緑黄色野菜群、果物群など)の摂取量の妥当性と再現性を確かめる目的で実施しました。 続きを読む

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日本人一般集団の乳製品の摂取と死亡リスク:12年間の追跡調査

研究ファイルNo.107:日本人が日常的に摂取している程度の乳製品摂取は死亡リスクを下げる?

 乳製品を食べることは健康的な食習慣の要素の1つとしていろいろな国で推奨されています。しかし、欧米からの最近の研究では、乳製品をよく食べることが死亡リスクを下げる・下げない・関係しない、と結果が一致していません。また、日本人の乳製品の摂取量は欧米人よりかなり低く、アメリカ人の半分程度です。同じ食品でも摂取量によって疾病や死亡のリスクとの関連が違うことがあるので、日本人にとって乳製品が死亡リスクを下げるかどうかを知るためには、日本人を対象とした検討が必要です。

 そこで、日本全国の35~69歳の男女を対象に実施した日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)の参加者79,715人のデータを用いて検討してみました。その結果、牛乳やヨーグルトといった乳製品をよく食べる女性は、そうでない女性に比べて12年間の追跡期間中の死亡リスクが19%低いことが明らかになりました。 続きを読む

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日本の一般住民集団における2型糖尿病ポリジェニックリスクスコア(PRS)の評価 ~異なる人種集団から構築されたPRSの比較検証~

研究ファイルNo.106:日本人に適した糖尿病の遺伝的リスクスコア評価は?

 糖尿病は世界で増加しており、日本国内でも1千万人以上の人が糖尿病またはその疑いが強いとされています。糖尿病は生活習慣病の一つとして、食習慣の乱れや運動不足、肥満などが大きな要因として認識されていますが、その一方で家族歴や遺伝子の影響も決して小さくありません。誰が糖尿病を発症しやすいのかを遺伝的要因に着目して評価するための研究が世界各地で進められており、その一つの方法として、「Polygenic Risk Score(ポリジェニック・リスクスコア、PRS)」という指標が用いられます。これは多数の遺伝子型の情報を統合して、一人ひとりの遺伝的なリスクを数値化するもので、スコアが高いほど糖尿病にかかる危険性が高いと考えられます。

 これまでPRSは主にヨーロッパ系の大規模遺伝子データを用いて開発されてきました。しかし、遺伝的背景は人種や地域ごとに異なるため、糖尿病の予測などに欧州由来のPRSをそのまま日本人に適用すると、精度が十分でない可能性があります。今回の研究では、日本人を対象に作成されたPRSを用いて、糖尿病をどの程度正確に評価できるかを検証しました。比較対象として、欧州のデータを基に開発されたPRSを評価し、日本人における糖尿病の予測精度の違いを調べています。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)に参加した1万4千人以上の参加者を対象に、約100万箇所の遺伝子型情報で構成されるPRS(日本人・欧州人由来それぞれ)のスコア値を計算し、実際に糖尿病と関連しているかどうかを検証しました。 続きを読む

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コーヒー摂取量と血中アディポネクチンの関連:横断解析

研究ファイルNo.105:コーヒーを飲むと「やせホルモン」が増えるのか?

 コーヒーは世界中で飲用されている飲料の一つで、死亡リスクや様々な病気のリスクを低減させる可能性があると報告されています。これまでの我々の研究でも、コーヒーを多く飲む人(特にフィルターコーヒーやインスタントコーヒー)は、循環器疾患やがんのリスクであるメタボリック症候群やその構成因子(高血圧、高血糖、高中性脂肪、低HDLコレステロール)を有する割合が低いことが分かっています(研究ファイルNo.89 )。今回我々は、このような関連がみられたメカニズムとして「アディポネクチン」が関与しているのではないかと考えました。

 アディポネクチンは、巷では「善玉ホルモン」や「やせホルモン」と呼ばれることもあり、血液中のアディポネクチン濃度が高いと、①体内の脂肪を燃焼させる、②動脈硬化になりにくくなる、③インスリン(血糖値を下げるホルモン)の効果が高くなるなどのメリットがあることが分かっています。しかし、このアディポネクチンの血中濃度は、肥満のある方では低いことも分かっています。

 このような背景から我々は、肥満の有無に分けてコーヒー摂取量と血中アディポネクチン濃度の関連を検討することとしました。 続きを読む

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複数形質ポリジェニックリスクスコア,非遺伝的要因,循環器疾患死亡:14,086名の日本人集団を対象としたコホート研究

研究ファイルNo.104:複数形質の遺伝的リスクと非遺伝的要因の組み合わせた解析

 2000年代から,疾患や形質と関与する遺伝的多型を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が行われてきました.これらの研究成果を活用したポストGWAS研究として,それぞれの遺伝的多型の効果を足し合わすことで,特定の疾患に関する個人の遺伝的リスクを推定する「ポリジェニックリスクスコア(PRS)」が注目されています.我々はこれまでもPRSに関する研究を実施しており,J-MICC Plusにもその研究成果が掲載されています(研究ファイルNo.80 , 研究ファイルNo.99 ).

 本研究では,J-MICC研究の参加者のうち遺伝子型を同定している対象者について,心血管代謝に関わる6つの形質(血圧,体格指数(BMI),中性脂肪,LDLコレステロール,腎機能,糖代謝)のPRSを組み合わせた「マルチトレイト・ポリジェニックリスクスコア(Multi-trait PRS)」を作成しました.そして,約12年間の追跡調査によりMulti-trait PRSと全死亡および循環器疾患の死亡との関連を解析しました.また,喫煙習慣や飲酒習慣のような修正可能な生活習慣,教育歴といった社会的な要因によって,Multi-trait PRSで定義される遺伝的リスクがどの程度変動し得るか合わせて調査しました. 続きを読む

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尿中ホルモンのバランスと糖尿病・高血圧の関係

研究ファイルNo.103:尿中コルチゾール/コルチゾン比レベルによって、糖尿病と高血圧の併存リスクが変わる?



 
 高血圧と2型糖尿病は、いずれも心血管疾患や腎障害などの重大な合併症リスクを高める疾患であり、両者が併存することでそのリスクはさらに増大します。実際、糖尿病患者さんの20〜60%が高血圧を併発しているとされ、治療抵抗性のケースも少なくありません。

 体の中では、「コルチゾール(活性型)」と「コルチゾン(非活性型)」というホルモンがバランスをとっており、ストレスや炎症、血圧の調整に関わる「グルココルチコイド」というホルモンの一種です。この2つの比率(=尿中コルチゾール/コルチゾン比)は、11β-HSDという酵素の働きを反映しています。この酵素が活発だと、コルチゾンがコルチゾールに多く変わり、血圧を上げる「ミネラルコルチコイド受容体(MR)」を強く刺激すると考えられています(図1)。つまり、この比率が高い人は、血圧が上がりやすい体質かもしれないということです。

図1.ミネラルコルチコイドの活性化に起因する糖尿病と高血圧

佐賀大学マスコットキャラクター‘かっちーくん’

 この研究では、「尿中のコルチゾール/コルチゾン比が、糖尿病と高血圧の関係に影響しているのでは?」という疑問をもとに調査が行われました。対象となったのは、J-MICC研究(日本多施設共同コホート研究)の佐賀地域の40~69歳の6931人の地域住民です。この方たちの尿サンプルを集め、液体クロマトグラフィーと質量分析を用いてコルチゾールとコルチゾンを測定しました。 続きを読む

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運動が生物学的年齢に与える影響とは?-エピジェネティック・クロックを用いた運動と老化の関係

研究ファイルNo.102:運動時間を増やすと生物学的年齢の進行(老化)を遅らせる?

【はじめに】

「年齢」とは通常、暦(こよみ)上の年数を指しますが、私たちの体内では一人ひとり異なるスピードで老化が進行しています。これは「生物学的年齢」と呼ばれ、同じ暦年齢でも健康状態や老化の進み具合が異なることがあります。この生物学的年齢を測定するための新しい手法として、「エピジェネティック・クロック」が近年注目されています。エピジェネティック・クロックは、DNAを構成するACGTの4種類の塩基のうち、CとGが並んだ場所(CpGと呼びます)に小さな分子であるメチル基(-CH3)が結合するDNAメチル化という化学的修飾のパターンを解析することで、実際の体の状態を反映した年齢を推定する方法です。

【方法】

今回の研究では、2005〜2007年にJ-MICC研究(佐賀地区)のベースライン調査に参加した40~69歳の一般住民867名(男性475名、女性392名)を対象に、このエピジェネティック・クロックと日常の運動や座りがちな生活(座位時間)との関係を調べました。特に、運動の時間と強度がどのように老化に影響を与えるのかを分析することで、運動習慣が健康維持にどのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的としました。

これまでに行われてきた研究では、自己申告による運動量を用いることが一般的でしたが、そうした主観的なデータには不正確さが伴います。そこで、本研究では、客観的な運動量を評価できる小型の活動量計による測定データを解析に用いました。

本解析では、DNAメチル化情報を基に、老化関連の疾患リスクを反映する「PhenoAge」と、寿命予測に関連する「GrimAge」という2つのエピジェネティック・クロックの指標を用いて、生物学的年齢を推定しました。

統計解析では年齢、性別、喫煙習慣、飲酒習慣、教育歴、DNAメチル化の測定手法、活動量計の装着時間や覚醒時間等を共変量として回帰分析を行いました。 続きを読む

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がんリスクにおける代謝表現型の意義

研究ファイルNo.101:肥満と代謝異常の組み合わせでがんリスクが変わる?

 肥満は世界中で深刻な公衆衛生上の問題の一つです。肥満を抱える人は世界、日本で増え続けています。また、肥満はその他の代謝異常(高血圧、高血糖、脂質異常)とともにメタボリック症候群を形成し、循環器疾患やがんのリスクと関係することが知られています。一方で、肥満はあるけれど、その他の代謝異常は無く健康な人もいれば、肥満はないけれど、その他の代謝異常を抱えて不健康な人がいることが注目されています。このような肥満の有無と、その他の代謝異常の有無による分類を「代謝表現型」と言います。

 代謝表現型それぞれは遺伝的背景も含めて病態に違いがあることが示唆されています。代謝表現型と全がん、部位別がん罹患との関係性について、ヨーロッパにおける研究がいくつか知られています。一方で、肥満の有病率は少なく、かつ肥満の健康への影響は大きいことが示唆されているアジアでは、十分な検討はなされていません。また代謝表現型は通常、検査データを用いて定義づけを行いますが、一人ひとり検査を行うことは時間とコストがかかります。自己申告の既往歴の情報で定義することができれば、より簡便であり大規模な研究を行う上で有用です。本研究では代謝表現型とがんとの関係性について検査データ、自己申告の既往歴の情報それぞれで定義した代謝表現型を用いて検討しました。 続きを読む

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食品群摂取量と高感度CRPに関する横断的検討

研究ファイルNo.100:どの食品群が慢性炎症に影響するか?


 慢性炎症は体の免疫反応が持続した状態であり、慢性炎症を持つ方では糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がんや死亡のリスクが高くなることが分かっています。そして、健康的な食事パターン(地中海式食事法、 Dietary Approaches Stop Hypertension [DASH食]など)を取っている方では、慢性炎症の状態になりにくいことが示されています。これらの健康的な食事パターンは、野菜、果物、魚、ナッツ、全粒穀物を多く食べ、赤身肉(牛肉や豚肉)、加工肉(ハムやベーコン)、精製した穀物の摂取を控えるという特徴を持ちます。しかし、これらの食事パターンに含まれる食品群のうち、いずれが慢性炎症に影響するのかについて十分なことが分かっていませんでした。そこで私たちは、先行研究の対象となった食品群のいずれが、慢性炎症の指標である高感度C反応性タンパク(高感度CRP)に影響するのかを横断研究により検討しました。

 今回の検討では、J-MICC研究のベースライン調査に参加された滋賀、福岡、九州・沖縄地区の対象者13,648名(35−69歳)のデータを用いました。検討対象とした食品群は米飯、パン、赤身肉、加工肉、鶏肉、乳製品、魚、野菜、果物、ナッツ、コーヒー、緑茶です。統計解析では線形回帰モデルを用い、共変量(食品群と慢性炎症の両方に影響すると考えられる要因)とともに食品群を互いに調整することで、食品群間の相関による影響を取り除いた効果(各食品群が慢性炎症に及ぼす独立した効果)を推定しました。
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血圧のポリジェニックリスクスコアと循環器疾患による死亡との関連

研究ファイルNo.99:血圧の遺伝的背景によって循環器疾患死亡のリスクが異なる

 従来のゲノム医学研究では,疾患や形質と関連する遺伝的な要因を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が盛んに行われ,多くの遺伝的多型が同定されてきました.これに続くポストGWAS研究の1つとして,それぞれの遺伝的多型の効果を足し合わせて求めるポリジェニックリスクスコア(PRS)が注目されています.以前J-MICC Plusで紹介した成果でも血圧のPRSと血圧測定値が関連することを報告しています(Fujii R, et al. Circ Gen Precis Med, 2022, 研究ファイルNo.80 ).

 本研究では,J-MICC研究の参加者のうち遺伝子型を同定している9,296人で血圧のPRSを計算し,全死因による死亡および循環器疾患による死亡との関連を縦断的に調査しました.また,喫煙,飲酒,塩分摂取量といった修正可能な生活習慣によって遺伝的リスクがどの程度変動し得るか合わせて調査しました.

 結果として,PRSが高い人ほど循環器疾患による死亡リスクが高いことが明らかになりました.たとえば,収縮期血圧のPRSが最も高いグループ(上位10%)では,リスクが中程度のグループ(20-80%)と比べて循環器疾患による死亡リスクが約3.7倍高くなるという結果が得られました(図1).同様に,拡張期血圧のPRSでも,上位10%では約2.9倍のリスク増加が確認されました.
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