研究ファイルNo.74:HDLコレステロール値に対する喫煙、飲酒、および遺伝的要因の人口ベースの影響
HDLコレステロール(HDL-C)は、いわゆる善玉コレステロールとして、動脈に沈着したコレステロールを取り除いて、肝臓に戻す働きを担っています。そのため、HDL-C値が低いと動脈硬化が進むことになります。生活習慣はHDL-C値に影響を与え、特に喫煙は値を下げ、逆に飲酒は上げることが報告されています。遺伝子多型で測られる体質もHDL-C値に比較的大きな影響を与えることが報告されていますが、それぞれの影響の大きさを詳細に比べた研究はありません。そこで、日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究のデータを用いて横断的解析を行い、低HDL-Cに対する喫煙、飲酒、遺伝的要因の人口ベースの影響を推定しました。
対象者は、ゲノムワイド関連研究(GWAS)として、遺伝子多型の網羅的解析とHDL-C値の測定が行われている35~69歳の男女11,498人です。HDL-C値におけるGWASの全研究結果がリストアップしてあるGWASカタログからゲノムワイドな有意性を有する65個のHDL-C関連遺伝子多型をまず選び、その中から7つの代表的な遺伝子多型が選ばれました(図1)。人口ベースの影響は、人口寄与割合(PAF)を用いて、定量的に見積もりました。
その結果、喫煙、飲酒、日常活動、習慣的な運動、卵摂取、BMI、年齢、性別に加え、CETP、APOA5、LIPC、LPL、ABCA1、LIPG、APOEの遺伝子多型がHDL-C値に関連していることが分かりました。低HDL-CのPAFは、非遺伝要因の男性(63.2%)が最も高く、CETP 遺伝子多型が31.5%、喫煙が23.1%、飲酒は41.8%でした(図2)。
本研究では、低HDL-Cに対するCETP遺伝子多型の人口ベースの影響の大きさは、喫煙よりも大きく、飲酒よりも小さいことが分かり、遺伝子多型で示される体質も生活習慣同様の大きな影響力を持っていることが示されました。
出典:
- Nindita Y, Nakatochi M, Ibusuki R, Shimoshikiryo I, Nishimoto D, Shimatani K, Takezaki T, Ikezaki H, Murata M, Hara M, Nishida Y, Tamura T, Hishida A, Nagayoshi M, Okada R, Matsuo K, Ito H, Mikami H, Nakamura Y, Otani T, Suzuki S, Koyama T, Ozaki E, Kuriki K, Takashima N, Miyagawa N, Arisawa K, Katsuura-Kamao S, Momozawa Y, Kubo M, Takeuchi K, Wakai K. Population-Based Impact of Smoking, Drinking, and Genetic Factors on HDL-Cholesterol Levels in J-MICC Study Participants. J Epidemiol. 2021 Aug 21. doi: 10.2188/jea.JE20210142. Online ahead of print.