血糖指標HbA1cに対する身体活動効果の主要栄養素摂取状況による違い

研究ファイルNo.75:HbA1cに対する身体活動と主要栄養素摂取の交互作用

 厚生労働省による令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は、男性19.7%、女性10.8%であり、全国で1000万人以上と推計されています。糖尿病に関連する年間の医療費は1兆2000億円以上とされ、健康への影響はもちろんのこと、社会経済的にも大きな負担となっています。糖尿病の予防と治療には、健康的な食事や身体活動を組み合わせて行うことが推奨されています。しかし、糖尿病予防における、食事と身体活動それぞれの種類や量に関する知見は一致しておらず、食事と身体活動がどのように影響し合うのかは明らかではありません。そこで本研究では、血糖コントロール指標のひとつであるHbA1cに対する身体活動の効果が、主要栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)の摂取状況によって異なるのか検証しました。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)に参加していただいた非糖尿病の一般住民55,084人を対象に分析を行い、HbA1cに対する身体活動の効果は、炭水化物や脂質の割合によって異なることが分かりました(図1)。高炭水化物および低脂質摂取者は、低炭水化物および高脂質摂取者に比べて、身体活動が増えることによるHbA1cが下がる効果がより顕著でした。本結果は、質問紙によって調べられた一時点での主観的な身体活動に基づくものですが、活動量計を使って客観的に身体活動を測定した6,881人における5年間の追跡調査でも同様の結果を認めました。

図1. 主要栄養素摂取割合ごとのHbA1cに対する身体活動の効果

 以上の結果より、健康な日本人が糖尿病を予防するという観点においては、脂質よりも炭水化物の割合が比較的多い食事のほうが、身体活動の効果が出やすい可能性があると考えられます(図2)。ただし、この結果は既に糖尿病を持っている方には当てはまりませんでした。また、炭水化物や脂質の割合を変えるために食事量(エネルギー摂取量)そのものが増えてしまうと、血糖値を上げることになってしまう危険性もあるので注意が必要です。

図2. HbA1cに対する身体活動効果の主要栄養素摂取状況による違い

出典:

  • Furukawa T, Nishida Y, Hara M, Shimanoe C, Koga K, Iwasaka C, Higaki Y, Tanaka K, Nakashima R, Ikezaki H, Hishida A, Tamura T, Kato Y, Tamada Y, Matsuo K, Ito H, Mikami H, Kusakabe M, Ibusuki R, Shibuya K, Suzuki S, Nakagawa-Senda H, Ozaki E, Matsui D, Kuriki K, Nakamura Y, Kadota A, Arisawa K, Katsuura-Kamano S, Takeuchi K, Wakai K, Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study Group. Effect of the interaction between physical activity and estimated macronutrient intake on HbA1c: population-based cross-sectional and longitudinal studies. BMJ Open Diabetes Res Care 2022; 10: e002479.
カテゴリー: 糖尿病, 脂質, 身体活動量, 食事 パーマリンク