研究ファイルNo.20:慢性腎臓病発症リスクにおける遺伝子多型と喫煙の交互作用
慢性腎臓病とは、主に糖尿病や高血圧が原因となって、腎臓内で尿をろ過する毛細血管の様なものでできた装置である腎糸球体が目詰まりを起こし、気づかずに放置しておくと、透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしやすくなったりする状態を言います。日本人における慢性腎機能障害の患者数は推計1,000万人以上と言われ、また年々増加傾向にあり、わが国においても慢性腎臓病に対する予防対策は緊急課題です。一方、これまでに、糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の個人間における配列の違い(=遺伝子多型)が、2型糖尿病などの糖質代謝異常症の罹りやすさに関係していることが報告されており、また近年のゲノムワイド関連解析研究(GWAS)において、糖質代謝遺伝子の一つであるGCKRの遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに有意に関連があることが報告されました。しかしながら、これら遺伝子多型と、タバコ・飲酒などの生活要因との複合的作用(=交互作用)が、慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはまだ十分には検証されていませんでした。
そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,324名の方の糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の多型とタバコ・飲酒などの生活要因が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。
その解析の結果、非喫煙者においては、糖質代謝の遺伝子であるGCKR遺伝子の1403番目の塩基がGCKR遺伝子のT/T型の人はそれ以外の遺伝子型の人に比べて約1.13倍、慢性腎臓病になりやすく、また、(現在)喫煙者においてはT/T型の人はそれ以外の人に比べて、約2.06倍も慢性腎臓病の罹りやすさが高くなる事が明らかになりました。
このことから、GCKR 1403 T>C遺伝子多型のT/Tという遺伝子型をもつ人では、その他の遺伝子型の人に比べると慢性腎臓病に罹りやすく、タバコを吸う事によってさらに罹りやすさが増すため、T/T遺伝子型をもつ人は、慢性腎臓病にならないためにはタバコに気を付ける必要がある、という可能性が示されました。これは、タバコにより生じる活性酸素が、糖質代謝異常による腎臓へのダメージに拍車をかけ、慢性腎臓病の罹りやすさが増加するためではないかと考えられました。今後の研究報告により、今回の結果が将来の効果的な慢性腎臓病の予防法に活かされることが期待されます。
出典:
- Asahi Hishida, Naoyuki Takashima, Tanvir Chowdhury Turin, Sayo Kawai, Kenji Wakai, Nobuyuki Hamajima, Satoyo Hosono, Yuichiro Nishida, Sadao Suzuki, Noriko Nakahata, Haruo Mikami, Keizo Ohnaka, Daisuke Matsui, Sakurako Katsuura-Kamano1, Michiaki Kubo, Hideo Tanaka, Yoshikuni Kita. GCK, GCKR polymorphisms and risk of chronic kidney disease in Japanese: data from the J-MICC Study. J Nephrol. 2013 (in press)