日本人男性におけるアルコール摂取と血清LDLコレステロールおよび中性脂肪の関連のALDH2とADH1B遺伝子多型による修飾

研究ファイルNo.40:ALDH2とADH1B遺伝子多型はアルコール摂取と血清脂質の関連を修飾する

適量の飲酒は心・脳血管疾患などの病気のリスクを下げることが報告されています。アルコール摂取によるHDLコレステロール増加やLDLコレステロール減少など血中脂質への有効性が一部考えられますが、これまでアルコール摂取と血中脂質の関連を検討した研究は十分ではありませんでした。一方、アルコール分解は遺伝的な影響を強く受けます。日本人はアルコール代謝が速くアセトアルデヒドの代謝が遅い遺伝的特徴を持つ人がいるため、その違いがアルコールと血中脂質の関連に影響するかもしれません。

そこで、私たちはJ-MICC研究に参加された889名の男性を対象として、代表的なアルコール代謝関連遺伝子多型であるALDH2やADH1B遺伝子多型がアルコール摂取量と血清脂質の関連を修飾するかを検討しました。

解析の結果、アルコール摂取量の増加はLDLコレステロール減少、HDLコレステロールや中性脂肪の増加と関連しました。また、ALDH2遺伝子多型のGlu/Lys, Lys/Lys群(アセトアルデヒド代謝が遅い群)でアルコール摂取量増加と血清LDLコレステロール減少の間に有意な関連を認めました。ADH1BとALDH2遺伝子多型の組み合わせごとの検討では、ADH1B His/His+ALDH2 Glu/Lys, Lys/Lys群(アルコール代謝が速くアセトアルデヒド代謝が遅い群)で、アルコール摂取増加と血清LDLコレステロール減少の間により強い関連を認めました。

適量の飲酒はLDLコレステロール減少に関連し、お酒が少し弱い人のほうがLDLコレステロール減少の影響を受けやすい可能性があることが分かりました。この遺伝子型を持つ人の飲酒は、飲酒関連がんなど他の健康リスクが報告されているため注意が必要ですが、遺伝的な修飾の存在により、中等度アルコール摂取が心・脳血管疾患リスクに有益な効果を及ぼす可能性を示しました。

アルコール摂取量の増加と血清脂質の変化

出典:

  • Sasakabe T, Wakai K, Kawai S, Hishida A, Naito M, Suzuki S, Nindita Y, Arisawa K, Kita Y, Hara M, Kuriyama N, Hirata A, Mikami H, Oze I, Kubo M, Tanaka H, Hamajima N. Modification of the Associations of Alcohol Intake With Serum Low-Density Lipoprotein Cholesterol and Triglycerides by ALDH2 and ADH1B Polymorphisms in Japanese Men. J Epidemiol. 2018 Apr 5;28(4):185-193.
カテゴリー: お酒, メタボリックシンドローム, 脂質, 遺伝子多型 パーマリンク