ABCA1遺伝子多型と身体活動がHDLコレステロールに及ぼす影響

研究ファイルNo.57:ABCA1遺伝子多型がHDLコレステロールに与える影響が身体活動レベルにより異なる可能性

 血液中のHDLコレステロール濃度が増加すると心臓病のリスクが低下します。これまでに、ゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study: GWAS)という全遺伝子を網羅的に測定する手法によりHDLコレステロールの濃度レベルに影響を与える遺伝子多型が幾つか報告されています。また、身体活動によりHDLコレステロールが増加するとの報告もあります。しかし、ゲノムワイド関連解析により同定された遺伝子多型とHDLコレステロールの関係に対して身体活動がどのように影響するかは未だよく分かっていません。

 そこで、2004-2012年にJ-MICC研究のベースライン調査(10地区)に参加された、35歳から69歳の男性4,830人、女性5,540人の方々を対象として、HDLコレステロールと関連する遺伝子多型をゲノムワイド関連解析により同定し、次に、同定された遺伝子多型と身体活動との交互作用(遺伝子多型がHDLコレステロール濃度に及ぼす影響が身体活動により修飾されるかどうか)を解析しました。日常生活における身体活動は、参加者の皆さんにご記入いただいた質問紙より情報を得て、3メッツ以上(歩行レベル以上)の身体活動を算出しました。

 結果として、ゲノムワイド関連解析によりHDLコレステロールと関係する遺伝子多型が男性で11個、女性で10個見つかりました。そして交互作用の解析の結果、男性においてATP-binding cassette protein A1 (ABCA1) 遺伝子多型(rs1883025 [遺伝子多型のID番号])と身体活動にHDLコレステロールへの交互作用が存在することが明らかになりました。すなわち、ABCA1 rs1883025多型(TまたはC)のCアレルの保有(CC型とCT型)によりHDLコレステロールが増加するという関係が見つかりましたが、それだけではなく、Cアレル保有によるHDLコレステロールの増加の程度が身体活動の低い男性では小さく、活動的な男性ではその増加の程度が大きいことが分かりました(図1A)。一方、女性においてはABCA1多型の影響は身体活動レベルに関係なく見られました(図1B)。

 ABCA1遺伝子多型の3つの遺伝子型(CC型、CT型、TT型)のどのタイプであっても、身体活動が健康上有益であることは言うまでもありません。しかし、今回の研究により、Cアレルの保有者で不活動な男性は、せっかく生まれながらに有益なCアレルをもっているのに宝の持ち腐れになっている、と言えるかもしれません。CアレルのHDLコレステロールを上げる有益な効果は、日常身体活動を高めることによって初めてフルに発揮されるのです。将来的には、この研究成果が個人個人の遺伝的背景を考慮した脂質異常症予防に役立てられることが期待されます。

図1. 日常身体活動レベル別にみたABCA1遺伝子多型(rs1883025)と血清HDLコレステロールの関係

出典:

  • Nishida Y, Hachiya T, Hara M, Shimanoe C, Tanaka K, Sutoh Y, Shimizu A, Hishida A, Tsukamoto M, Kadomatsu Y, Oze I, Koyanagi YN, Kuriyama N, Koyama T, Ibusuki R, Takezaki T, Ikezaki H, Furusyo N, Takashima N, Kadota A, Uemura H, Katsuura-Kamano S, Suzuki S, Nakagawa-Senda H, Kuriki K, Mikami H, Nakamura Y, Momozawa Y, Kubo M, Nakatochi M, Naito M, Wakai K; Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study Group. The interaction between ABCA1 polymorphism and physical activity on the HDL-cholesterol levels in a Japanese population. J Lipid Res 2020; 61: 86–94
カテゴリー: 脂質, 身体活動量, 運動習慣, 遺伝子多型 パーマリンク