食事酸負荷とメタボリック症候群の有病率との関連:日本多施設共同コーホート研究ベースライン調査より

研究ファイルNo.60:食事酸負荷とメタボリック症候群の有病率との関連

緒言

 近年、高い食事酸負荷や高蛋白質の食事などに反映される軽度の代謝性アシドーシスが、糖尿病の発症リスクと関連することが報告されている。食事酸負荷の指標としては、Net Endogenous Acid Production(NEAP)、 Potential Renal Acid Loadが知られているが、これらは肉、魚、卵の摂取量と正の相関が、一方、野菜、果物、乳製品の摂取量と負の相関がある。そのため、食事酸負荷は西欧型食パターンと正の、健康的食パターンと負の相関があると考えられる。このことは、食事酸負荷とメタボリック症候群(MetS)との関連を調べる際に食パターンが交絡因子となりうることを示唆する。これまで、食事酸負荷とMetSとの関連を調べた研究は少なく、また食習慣を含む交絡因子は十分考慮されていなかった。そこで、今回、日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究のベースラインデータを用い、栄養素パターンを含む生活習慣を考慮に入れた上で、食事酸負荷とMetSとの関連を検討した。

対象と方法

 J-MICC研究において共通の質問票を使用した7地区のベースライン調査に参加 した日本人の男女、38,298人を対象とした。虚血性心疾患、脳卒中、がんの既往が ある人、MetS診断のためのデータが欠損している人、喫煙、飲酒、身体活動量、  既往歴に関するデータが欠損している人、摂取エネルギー量が極端に多い、または少ない人を除き、残りの2,8147人を解析対象とした。

名古屋市立大学で開発されたJ-MICC研究用の食品摂取頻度調査票を用いて食習慣を評価し、栄養摂取量計算プログラムを用いてエネルギ―を含む21栄養素の摂取量を計算した。NEAPは残差法でエネルギー調整した蛋白質とカリウムの摂取量を使用し、以下の式を用いて計算した。

NEAP (mEq/day) = 54.5 × protein (g/day)/potassium (mEq/day) − 10.2

MetSは、 Joint Interim Statement Criteria(2009)を一部改変し、腹囲の代わりにBody Mass Index >=25 kg/m2を用いて診断した。

NEAPによって集団を4群に分け、NEAPの最も低い群を基準として、logistic回帰分析を用いてMetSおよび各構成要素のオッズ比を推定した。性、年齢、調査地区、エネルギー摂取量、身体活動量、飲酒、喫煙、学歴を調整した。また、21栄養素の摂取量(残差法でエネルギー調整後)に因子分析を適用し、抽出された2つの栄養素パターンの因子得点、および炭水化物摂取量を調整した。 

結果および考察

 NEAPの高い人は、男性、現在および過去喫煙者、現在飲酒者、身体活動量の低い人が多かった。また、NEAPは炭水化物摂取量と弱い負の関連があり、栄養素パターン1(食物繊維、鉄、カリウム、ビタミンパターン)と負の関連があり(r = -0.56)、栄養素パターン2(脂肪および脂溶性ビタミンパターン)と弱い正の関連があった(表1)。

 栄養素パターン1を含む交絡因子を調整しても、 NEAPはMetS、肥満、血圧高値、血糖値高値と関連していた(図1)。栄養素パターン2(脂肪および脂溶性ビタミンパターン)、炭水化物摂取量を調整しても、結果は大きく変わらなかった(図示せず)。

表1

 生物学的機序としては、軽度の代謝性アシドーシスによるインスリン抵抗性の増大、Transforming Growth Factor-βの転写および発現上昇によるインスリン分泌抑制、尿中カルシウムおよびマグネシウムの排泄増大による血圧上昇、インスリン作用の減弱などが考えられる。

本研究の強みは、対象集団が大きいことと、栄養素パターンを含む交絡因子となりうる変数を調整していることである。本研究の限界としては、(1)横断研究のため、食習慣とMetS発症との時間的な関係が明らかでないこと、(2)。食事酸負荷の指標としてNEAPのみを用いたこと、(3)食習慣の調査において食品摂取頻度調査を用いているため、蛋白質、カリウム摂取量の測定誤差があると考えられること、(4) MetSの診断において、腹囲の代わりにBMI高値を用いているため、ある程度の誤分類があると考えられること、(5)日本人を対象としているため、本研究の結果をただちに他の人種の集団に適用できないと考えられること、が挙げられる。

出典:

  • Arisawa K, Katsuura-Kamano S, Uemura H, Tien NV, Hishida A, Tamura T, Kubo Y, Tsukamoto M, Tanaka K, Hara M, Takezaki T, Nishimoto D, Koyama T, Ozaki E, Suzuki S, Nishiyama T, Kuriki K, Kadota A, Takashima N, Ikezaki H, Murata M, Oze I, Matsuo K, Mikami H, Nakamura Y, Takeuchi K, Wakai K. Association of dietary acid load with the prevalence of metabolic syndrome among participants in the baseline survey of the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Nutrients. 2020; 12: 1605.
カテゴリー: お酒, たばこ, メタボリックシンドローム パーマリンク