お菓子摂取量のゲノムワイド関連解析(GWAS)

研究ファイルNo.64:お菓子のGWAS

 いろいろな食品の摂取嗜好には遺伝の関与が指摘されています。甘み味覚受容体の遺伝子変異が甘い食べ物の嗜好と関連するとの報告が候補遺伝子研究からなされています。

 そこで今回、私たちはJ-MICC研究に参加された約1万4千名の研究参加者の中から総食事摂取量が1日500~5,000kcalの範囲外の人などを除外した14,073人を選び出し、アンケートデータをもとに半定量食品頻度法で計算した和菓子+洋菓子の1日摂取量と約850万か所の遺伝⼦変異との関連をゲノムワイド関連解析(GWAS)という⼿法で網羅的に調べました。統計上の調整因子として年齢、性、総摂取熱量、集団階層化を補正するための遺伝子主成分1-3を用いました。加えて飲酒量を調整因子に追加した解析も行いました。

 今回解析の結果、飲酒量での調整がないとき染色体12上の遺伝子変異418個が和洋菓子摂取量と有意(P<5x10-8)に関連しました。これらはBRAP, ACAD10, ALDH2, ADAM1Aなどの遺伝子上に存在しました。これらの中で和洋菓子摂取量と最も強く関連を示したのはALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)2遺伝子変異rs671(遺伝子変異のID)で(効果量effect size=1.70±0.15, P<8.62x10-31)。 この結果をGWASの際によく⽤いられるマンハッタンプロットという図(図1)で示します。しかし次に共変数に飲酒量を追加した解析では和洋菓子摂取量と有意に関連する遺伝子変異は皆無となりました。この結果をGWASの際によく⽤いられるQQプロットという図(図2)で⽰します。

図1: 和洋菓子摂取量に関するGWASのマンハッタンプロット(飲酒量による調整なし)
横軸に染⾊体番号を、縦軸に-log10P-valueを取っています。これを見ますと第12番目の染色体に和洋菓子摂取と関連が強い遺伝子変異があることがわかります。

 

図2 QQプロット

図2: 和洋菓子摂取量に関するGWASのQQプロット(飲酒量による調整あり)
X軸に帰無仮説から期待される-log10P、Y軸にGWASで実際観測された-log10Pをプロットしたもの。もし関連性が認められない場合45°のプロットになります。このプロットの場合、ほぼすべては45°の線上におさまっていて、真の関連性がる遺伝子多型は皆無であることを示します。

 

 ALDH2遺伝子変異rs671は日本を含めた東アジア住民に発現頻度が高く、欠損rs671遺伝子変異をもつとアルコールの中間代謝産物のアセトアルデヒドの分解能力が極めて悪く、アセトアルデヒドが体内に残量するため飲酒による顔面紅潮、頭痛などの副作用を起こします。今回共変数に飲酒量を追加した解析で和洋菓子摂取量と関連する遺伝子変異が皆無となったと理由はrs671遺伝子変異が和洋菓子摂取量と強く関連し、rs671遺伝子変異と連鎖不平衡にある同一領域の多数の他の遺伝子変異は和洋菓子摂取量と関連がないことを示します。本研究では欠損ALDH2遺伝子変異一つをもつと(遺伝子変異rs671のヘテロ)和洋菓子摂取量が1日平均1.7g増えることがわかりました。遺伝子変異rs671が存在しないヨーロッパ系住民を対象とした疫学研究でお菓子や砂糖の摂取量は飲酒量と反比例することがわかっています。したがって今回の研究でもこのことを観察したのだと考えます。飲酒量と無関係な和洋菓子摂取量と関連する遺伝子多型はないことを意味します。

出典:

  • Suzuki T, Nakamura Y, Doi Y, Narita A, Shimizu A, Imaeda N, Goto C, Matsui K, Kadota A, Miura K, Nakatochi M, Tanaka K, Hara M, kezaki H, Murata M, Takezaki T, Nishimoto D, Matsuo K, Oze I, Kuriyama N, Ozaki E, Mikami H, Nakamura Y, Watanabe M, Suzuki S, Katsuura-Kamano S, Arisawa K, Kuriki K, Momozawa Y, Kubo M, Takeuchi K, Kita Y, Wakai K, for the J-MICC Research Group. A genome-wide association study on confection consumption in a Japanese population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Br J Nutr 2021; 126(12): 1843-1851.
カテゴリー: 遺伝子多型, 食事 パーマリンク