PSCA遺伝子多型が十二指腸潰瘍のリスクに与える影響

研究ファイルNo.66:PSCA遺伝子と十二指腸潰瘍との関係

論文要旨

 十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃がんはいずれもヘリコバクターピロリ感染、喫煙習慣、飲酒習慣などの環境要因により罹患しやすさ(=リスク)が上昇することが知られている消化管疾患です。そして、十二指腸潰瘍のある人は胃がんに罹患しにくいことが過去の観察研究から知られていましたが、その原因に関わる遺伝的要因は明らかになっていませんでした。

 また、近年胃がんに関与する遺伝的要因が明らかになってきており、そのうちの一つにPSCA遺伝子多型があります。その遺伝子多型の一つであるrs2294008Cアレルと胃がんのリスクが減少することが多くの研究から報告されています。他方で、十二指腸潰瘍や胃潰瘍にも同遺伝子の遺伝子多型が関与する可能性も報告されてきています。しかし、疾患のリスクは遺伝的要因と環境要因が複雑に関わってくるため両者の関係を明らかにしてゆくことは疾患の病態の解明にとって重要です。

 そこで我々は、J-MICC studyの参加者で、質問票に回答し遺伝子型が判定された9,614人を対象として、こうした遺伝子多型は様々な環境要因の影響なく十二指腸潰瘍や胃潰瘍のリスクに関与しているのかを評価を行いました。

 その結果、rs2294008 Cアレルは十二指腸潰瘍のリスクと有意な関連を認め、一方、胃潰瘍のリスクとは有意な関連を認めないという結果を得ました(図1)。さらにそれらの関連性は喫煙習慣、飲酒習慣、ヘリコバクターピロリ感染状況といった環境要因の影響に関わらず認めました。過去の研究の結果と本研究結果を合わせると、胃がんと十二指腸潰瘍の間には様々な環境要因とは独立した、相反する遺伝的要因の存在があることが明らかになりました(図2)。本研究結果を基にさらなる評価を積み重ねることで消化菅疾患のより詳細な病態解明につながり、疾患の予防や治療に役立てることができるようになるかもしれません。

図1. PSCA rs2294008 Cアレルが十二指腸潰瘍、胃潰瘍に与える影響

図2. 十二指腸潰瘍、胃がんとPSCA rs2294008 Cアレルとの関係

出典:

  • Usui Y, Matsuo K, Oze I, Ugai T, Koyanagi Y, Maeda Y, Ito H, Hishida A, Takeuchi K, Tamura T, Tsukamoto M, Kadomatsu Y, Hara M, Nishida Y, Shimoshikiryo I, Takezaki T, Ozaki E, Matsui D, Watanabe I, Suzuki S, Watanabe M, Nakagawa-Senda H, Mikami H, Nakamura Y, Arisawa K, Uemura H, Kuriki K, Takashima N, Kadota A, Ikezaki H, Murata M, Nakatochi M, Momozawa Y, Kubo M, Wakai K. Impact of PSCA polymorphisms on the risk of duodenal ulcer. J Epidemiol. 2021; 31: 12-20.
カテゴリー: がん, 遺伝子多型 パーマリンク