血漿ホモシステイン・葉酸・ビタミンB12値および葉酸摂取量と高血圧症との関連

研究ファイルNo.69:血漿ホモシステイン値と高血圧症との関連

 ホモシステインは、必須アミノ酸であるメチオニンの代謝中間生成物として、体内で生成されるアミノ酸です。メチオニンの代謝に関わる代表的なビタミンである葉酸やビタミンB12の欠乏は、メチオニンの代謝を停滞させ、細胞内のホモシステインを増加させます。細胞内で増加したホモシステインは血中に移行して、心血管疾患や脳卒中のリスクを高めることが知られています。いくつかの研究は血中ホモシステインの増加が高血圧症と関連することを示唆していますが、関連を評価するにあたって、メチオニンの代謝に関わる葉酸やビタミンB12を考慮している研究はほとんどありませんでした。そこで今回、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study: Japan-Multi Institutional Collaborative Cohort Study)に参加された方々の調査データにもとづいて、血中葉酸・ビタミンB12値および葉酸摂取量を考慮して血中ホモシステイン値と高血圧症との関連を評価するとともに、メチオニン代謝関連ビタミン値と高血圧症との関連もあわせて検討しました。

 本研究では、血漿ホモシステイン・葉酸・ビタミンB12値を測定した35〜69歳の男女2,079名(男性: 1,046名、女性: 1,033名)を解析対象者としました。対象者の葉酸摂取量は食物摂取頻度調査票を用いて推定しました。対象者の安静時の座位血圧について、調査スタッフが自動血圧計を用いて測定しました。高血圧症は、最高血圧140mmHg以上または最低血圧90mmHg以上、あるいは血圧を下げる薬の服用のいずれかを満たす場合としました。高血圧症との関連を評価するにあたって、統計学的手法を用いて関連に影響を与える他の要因(年齢や飲酒、BMIなど)を考慮しました。また高血圧症に対する血漿ホモシステイン・葉酸・ビタミンB12値および葉酸摂取量の影響をお互いに調整して関連を評価しました。対象者を男女別に各測定値の小さい順に並べて4等分(四分位群:測定値が小さい値の群の順にQ1、Q2、Q3、Q4)に分けて分析を行いました。

 その結果、血漿ホモシステイン値の第2〜4四分位群(Q2〜Q4)における高血圧症の有病割合は、最低四分位群(Q1)と比べて、男性でそれぞれ1.75倍、1.80倍、2.36倍、女性でそれぞれ1.17倍、1.48倍、1.86倍と有意に増加しました(図1)。また男性の血漿葉酸値の第2・4四分位群(Q2・Q4)における高血圧症の有病割合は、最低四分位群(Q1)と比べて2.22倍、1.98倍と高く(図2)、葉酸摂取量については第3四分位群(Q3)で0.60倍と低いことが観察されました(図3)。女性の血漿葉酸値および葉酸摂取量は高血圧症と関連しませんでした(図2・3)。女性において血漿ビタミンB12値が高血圧症と正の関連を示しました(図4)。

 本研究は一時点での研究であるため、関連の因果関係を示すことはできません。しかし、本研究によって、高血圧症におけるホモシステインの重要性があらためて示唆されました。本関連ではホモシステインによる血管障害を通じた血圧上昇メカニズムが考えられています。一方で血漿葉酸・ビタミンB12値および葉酸摂取量と高血圧症との関連は明らかではありませんでした。対象者を前向きに追跡したコホート研究や遺伝情報を活用したメンデルランダム化解析では、血中ホモシステイン増加による高血圧症の発症を支持しない知見もあることから、日本人他集団での再評価が望まれます。

出典:

  • Tamura T, Kuriyama N, Koyama T, Ozaki E, Matsui D, Kadomatsu Y, Tsukamoto M, Kubo Y, Okada R, Hishida A, Sasakabe T, Kawai S, Naito M, Takashima N, Kadota A, Tanaka K, Hara M, Suzuki S, Nakagawa-Senda H, Takezaki T, Shimoshikiryo I, Ikezaki H, Murata M, Oze I, Ito H, Mikami H, Nakamura Y, Kuriki K, Arisawa K, Uemura H, Takeuchi K, Wakai K. Association between plasma levels of homocysteine, folate, and vitamin B12, and dietary folate intake and hypertension in a cross-sectional study. Sci Rep 2020; 10: 18499.
カテゴリー: J-MICC研究概要, 食事, 高血圧 パーマリンク