研究ファイルNo.70:アルコール摂取パターンとメタボリック症候群関連要因との関連
飲酒はがんと直線的な関連が報告されている一方、循環器疾患とはJ字型の関連が報告されています。アルコール摂取は、高血圧や耐糖能異常とは正の関連、脂質異常症とは負の関連を示すため、異なる方向の関連が存在することを考慮する必要があります。さらに、メタボリック症候群(Mets)関連要因に対する飲酒量と飲酒頻度の効果を合わせて比較した研究は限られています。本研究では飲酒量と飲酒頻度からなる飲酒パターンとMets関連要因との関連を明らかにした上で、飲酒量と飲酒頻度を減少させた際に関連要因を有する者がどう変化するかを見積るために横断研究を実施しました。
解析対象者は、日本多施設共同コーホート研究ベースライン調査に参加した35~69歳の男女のうち、禁酒者や、高血圧または脂質異常症、糖尿病の治療歴がある者などを除外した37,371名(男性16,559名、女性20,812名)です。アルコール摂取量は男性で7分類、女性で5分類に、摂取頻度は男女とも6分類に分け、更に、アルコール摂取量を男性で0.1-19.9、≧20.0 g/日、女性で0.1-9.9、≧10.0 g/日に群分けした上でもその影響を解析しました(アルコール20gはビール500ml相当)。また、アルコール摂取量と摂取頻度を表1に示した条件で減らすと仮定し、Mets関連要因およびMetsを有する者の割合を算出しました。
その結果、1)男女とも、高値血圧のオッズ比はアルコール摂取量ともに直線的に上昇、脂質異常症で低下、耐糖能異常で直線的に上昇し、Metsのオッズ比は摂取量に応じ、男性のみJ字型の関連を示しました。2)男女とも、高値血圧のオッズ比(アルコールを摂取すると高値血圧になる危険度)は比較的多量飲酒者においてアルコール摂取頻度ともに直線的に上昇しました。一方、脂質異常症のオッズ比はアルコール摂取頻度とともに低下しましたが、摂取量による差は明らかではありませんでした。アルコール摂取頻度と耐糖能異常、Metsとの関連も明らかではありませんでした。3)男性におけるアルコール摂取量と頻度を減じる仮定では、中等量~多量飲酒者のみで摂取量を男性で20 g/日未満、女性で10 g/日未満に減じた群で高値血圧や耐糖能異常、Metsを有する者の割合が最も低くなり、全飲酒者で摂取量を男性で20 g/日、女性で10 g/日に減じた群で脂質異常症の割合が最も高くなりました(表1)。4)女性における仮定では、c) 群で脂質異常症の割合が最も高くなりましたが、他の要因では明らかな低下や上昇は認められませんでした。
本研究において得られた知見をもとに、アルコール摂取量と摂取頻度を減らす仮定をしたところ、Mets関連要因を有する者の割合は高値血圧で低下、脂質異常症で上昇し、特に男性において、中等量~多量飲酒者の飲酒量を1日当たり20 g未満に減らす仮定をした際の高値血圧を有する者の割合が最も大きく低下しました。これは厚生労働省健康日本21で推奨される飲酒量と同じであり、推奨量を支持する研究結果となりました。
出典:
- Shimoshikiryo I, Ibusuki R, Shimatani K, Nishimoto D, Takezaki T, Nishida Y, Shimanoe C, Hishida A, Tamura T, Okada R, Kubo Y, Ozaki E, Matsui D, Suzuki S, Nakagawa-Senda H, Kuriki K, Kita Y, Takashima N, Arisawa K, Uemura H, Ikezaki H, Furusyo N, Oze I, Koyanagi YN, Mikami H, Nakamura Y, Naito M, Wakai K; J-MICC Study Group. Association between alcohol intake pattern and metabolic syndrome components and simulated change by alcohol intake reduction: A cross-sectional study from the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Alcohol. 2020; 89: 129-138.