日本人における肉摂取量に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)

研究ファイルNo.71:肉摂取量のゲノムワイド関連解析(GWAS)

 いろいろな食品の摂取嗜好には遺伝の関与が指摘されています。これまでの我々および他の日本の研究者の結果からALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)2遺伝子変異rs671(遺伝子変異のID)があると魚摂取と負の関連があり(すなわちお酒を飲めないヒトは魚摂取量が少ない)、逆にコーヒー摂取量とは正の関連があることがわかりました。またお菓子など甘い食べ物の摂取量とは正の関連があるものの、酒の摂取量で調整すると遺伝子変異の影響は消失しました。肉摂取量に関するGWASは欧米人を対象とした研究が1つあり、29の独立した遺伝子変異が主成分分析による肉摂取傾向と関連することを示しましたが、日本人を対象とする研究はありませんでした。

 そこで今回、私たちはJ-MICC研究に参加された約1万4千名の研究参加者の中から総食事摂取量が1日500~5,000kcalの範囲外の人などを除外した14,076人を選び出し、アンケートデータをもとに半定量食品頻度法で計算したエネルギー摂取量1000kcal当たりの肉(トリ、ブタ、ウシ肉およびレバー、ハム、ベーコンなどの総量)摂取量と約850万か所の遺伝子変異との関連をゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法で網羅的に調べました。統計上の調整因子として年齢、性、集団階層化を補正するための遺伝子主成分1-10を用いました。加えて男女別解析も行いました。

 今回解析の結果、rs671も含めて肉摂取量と関連する遺伝子多型は全く見つかりませんでした。男女別に解析して結果も同様でした。またヨーロッパ系住民で関連があったと報告された遺伝子多型すべてについても今回の肉摂取量と関連するものは見つけることが出来ませんでした。今回の結果をGWASの際によく用いられるマンハッタンプロットという図(図1)とQQプロットという図(図2)で示します。

 肉摂取量に関連する遺伝的変異が見つからなかった一つの理由として、なんらかの食品摂取との遺伝的相互作用が成立するにはかなりの期間が必要である可能性があげられます。6世紀の日本への仏教伝来とともに日本人の多くは肉を食べるのをやめました。19世紀後半の明治時代になって肉摂食が再開されますが、今日でも日本の肉消費量は西欧諸国よりはるかに少なく経過します。この長期間の肉食への曝露の欠如が遺伝子と肉を食べる相互作用の発達が起こらなかったとも考えられます。

図1 肉摂取量に関するGWASのマンハッタンプロット

横軸に染色体番号を、縦軸に-log10P-valueを取っています。赤の横線がGWAS有意のレベルのP値(5×10-8)を示していますが、有意な遺伝子多型は全く見当たりません。

図2 肉摂取量に関するGWASのQQプロット

X軸に帰無仮説から期待される-log10P、Y軸にGWASで実際観測された-log10Pをプロットしたもの。もし関連性が認められない場合45°のプロットになります。このプロットの場合、ほぼすべては45°の線上におさまっていて、真の関連性がある遺伝子多型は皆無であることを示します。

 

出典:

  • Nakamura Y, Narita A, Sutoh Y, Imaeda N, Goto C, Matsui K, Takashima N, Kadota A, Miura K, Nakatochi M, Tamura T, Hishida A, Nakashima R, Ikezaki H, Hara M, Nishida Y, Takezaki T, Ibusuki R, Oze I, Ito H, Kuriyama N, Ozaki E, Mikami H, Kusakabe M, Nakagawa-Senda H, Suzuki S, Katsuura-Kamano S, Arisawa K, Kuriki K, Momozawa Y, Kubo M, Takeuchi K, Kita Y, Wakai K. A genome-wide association study on meat consumption in a Japanese population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort study. J Nutr Sci. 2021 Oct 11;10:e61
カテゴリー: J-MICC研究概要, 遺伝子多型, 食事 パーマリンク