BMI関連遺伝学的リスクスコアを用いた遺伝×生活習慣交互作用に関する横断研究

研究ファイルNo.90:遺伝学的リスクは生活習慣と肥満との関係にどう影響するか?


本研究では、生活習慣と肥満との関係に焦点を当て、特に肥満の遺伝学的リスクが生活習慣と肥満との関連にどのように影響するか(交互作用)を調べました。このような、体質である遺伝学的な要因によって、生活習慣が病気の発症に影響する程度が変わったりすることを遺伝×生活習慣交互作用と呼んでいます。将来、この遺伝×生活習慣交互作用を食事指導に応用することができるようになると、みなさんお一人お一人の体質にあわせて個別化された最適な指導が受けられるようになります。

肥満はがん、脳卒中、心筋梗塞などの病気リスクを高めます。肥満の原因となる環境要因には、生活習慣だけでなく経済状況、民族、文化、地理的な要素なども挙げられ、生活習慣としては食事や運動などが挙げられます。一方で、これらの要素が単独でBMI(体格指数 [体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)])に及ぼす影響は大きくありません。これらの要素は違いに複合的に影響しあい、前述の遺伝×生活習慣交互作用なども通してBMIに大きな影響を与えます。

肥満の遺伝×生活習慣交互作用を検証している過去の研究の結果を見ると、交互作用が存在するかどうかについて一貫した結果が得られておらず、遺伝×生活習慣交互作用に関するエビデンスは不十分でした。そこで本研究では、肥満の遺伝学的なリスクによって、食事や運動といった生活習慣とBMIとの関係が修飾されるかを調査しました。

J-MICC研究に参加された方のうち、解析に必要なデータがそろっている35歳から69歳までの12,917人の方のベースラインデータを用いた横断研究を行いました。遺伝学的なリスクはは日本人の集団でBMIに関係することが知られている遺伝学的な情報(76個の一塩基多型)を用いて、それぞれBMIに及ぼす影響の大きさを加味しながら合算することで算出しました(遺伝学的リスクスコア[GRS])。解析は線形混合モデルにより行い、GRS、年齢、性別、BMIの測定方法、21の生活習慣に関する情報(栄養摂取量や身体活動料など)、さらに年齢×性別、GRS×年齢、GRS×生活習慣(21個)を固定変数、J-MICCのリクルートサイトをランダム効果として用いました。

解析の結果、GRSと飽和脂肪酸の摂取量との間に遺伝×生活習慣交互作用が存在する可能性が示唆されました(図1)。GRSが低い方の半分の人では飽和脂肪酸の摂取量とBMIとはあまり関連がない一方で、GRSが高い方の半分の人では、BMIが高いことと飽和脂肪酸の摂取量が少ないことの間に関連を認めました。飽和脂肪酸は乳製品(牛乳、バターなど)や肉類(牛肉、豚肉など)といった食品に多く含まれている栄養素です。その他、BMIが18〜25 kg/m2の女性では、ω-3多価不飽和脂肪酸とビタミンB1(図2)、BMIが 25kg/m2以上の女性では座位時間とGRSとの間(図3)に遺伝×生活習慣交互作用が存在することが示唆されました。男性においては、BMIが 25kg/m2以上の方々でGRSと年齢との交互作用を認めたのみで、生活習慣との交互作用は観察されませんでした。

図1: 遺伝学的リスクと飽和脂肪酸摂取量との交互作用

研究対象者のうち、遺伝学的リスクが低い方、高い方の半分の方々の結果を、それぞれ赤と緑の直線で示しています。BMIと飽和脂肪酸摂取量との関連が遺伝学的リスクによって異なることが示唆されます。

 

図2: BMIが正常範囲の女性での遺伝×生活習慣交互作用解析の結果

研究対象者のうち、BMIが18kg/m2より大きく25kg/m2より小さい女性において、遺伝学的リスクが低い方、高い方の半分の方々の結果を、それぞれ赤と緑の直線で示しています。ω-3多価不飽和脂肪酸とビタミンB1の摂取量とBMIとの関連が遺伝学的リスクの高低によって異なることを示唆する結果がみられました。

 

図3: BMIが25kg/m2以上の女性での遺伝×生活習慣交互作用解析の結果

研究対象者のうち、BMIが25kg/m2以上だった女性において、座位時間とBMIとの関連が遺伝学的リスクの高低によって異なることを示唆する結果がみられました。

 

以上の研究結果から、GRSと栄養摂取や身体活動量との間に遺伝×生活習慣交互作用が存在する可能性が示唆されました。今後、さらなるエビデンスによって、遺伝×環境交互作用をもちいて、個人の体質に基づいて現在よりもより効率的に肥満の予防やより効果的な治療介入ができるようになる可能性があります。

出典:

  • Nakamura S, Fang X, Saito Y, Narimatsu H, Ota A, Ikezaki H, Shimanoe C, Tanaka K, Kubo Y, Tsukamoto M, Tamura T, Hishida A, Oze I, Koyanagi YN, Nakamura Y, Kusakabe M, Takezaki T, Nishimoto D, Suzuki S, Otani T, Kuriyama N, Matsui D, Kuriki K, Kadota A, Nakamura Y, Arisawa K, Katsuura-Kamano S, Nakatochi M, Momozawa Y, Kubo M, Takeuchi K, Wakai K. Effects of gene-lifestyle interactions on obesity based on a multi-locus risk score: A cross-sectional analysis.
    PLoS One. 2023; 18 :e0279169.
カテゴリー: 肥満, 遺伝子多型 パーマリンク