研究ファイルNo.89:コーヒーをよく飲む人は代謝的に健康?
コーヒーは世界で最も飲まれている飲み物の一つです。コーヒーはその健康への影響についても注目されており、心血管疾患、呼吸器疾患、糖尿病などへの予防効果が期待されています。
メタボリック症候群とは、複数の心血管疾患のリスク要因が同時に見られる状態を指します。その要因は、肥満、高血糖、高血圧、血中中性脂肪の増加、およびHDLコレステロールの低下です。メタボリック症候群は、今までに食事、運動、睡眠など様々な生活習慣との関係性が研究されて来ました。また、メタボリック症候群と類似の概念として、代謝表現型が注目されています。代謝表現型とは、代謝の異常の有無と肥満の有無という2つの要素を用いて対象者を分類するための分類法です。これにより、代謝的に不健康な状態を特定できます。代謝表現型ごとに心血管疾患、糖尿病、部位別がんなどの様々な疾患のリスクに違いがあることが報告されています。
本研究では、コーヒーとメタボリック症候群、代謝表現型との関連について検討しました。
J-MICC研究に参加された方のうち、解析に必要なデータがそろっている35歳から69歳までの26,363人の方のベースラインデータを用いた横断研究を行いました。対象者の方のコーヒー摂取量や生活習慣に関する情報は、質問票によって評価しました。メタボリック症候群は、国際的な基準(Joint Interim Statement Criteria)を用い、5つの要因のうち3つ以上がある場合とし、肥満についてはウエスト周囲径の代わりにBMIを用いて、25以上であれば肥満としました。代謝表現型は、代謝異常の有無(メタボリック症候群の要因があるか否か)と肥満の有無で、代謝的に健康/不健康な肥満、代謝的に健康/不健康な正常体重の4つに分類しました。統計解析は、年齢、性別、研究サイト、総エネルギー摂取量、身体活動量、教育レベル、飲酒、喫煙を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行いました。
解析の結果、コーヒーの摂取量は、メタボリック症候群、代謝的に不健康な正常体重/肥満と負の関連がありました (図1)。さらにコーヒー摂取を種類別に分けて解析した結果、フィルター式やインスタントコーヒーの摂取においてはこの関連は見られましたが、缶入りやボトル入り、パック入りコーヒー摂取においては有意な関連は見られませんでした(図2)。
以上の研究結果から、日本人成人において、高いコーヒー摂取量、特にフィルターコーヒーやインスタントコーヒーの摂取が、肥満の有無に関わらず、代謝的に不健康な状態の発生を抑える可能性があることが示唆されました。本研究は一時点のデータでコーヒー摂取量と代謝的に不健康な表現型との関係性を検討した横断研究であるため、研究上の限界があります。今後、コーヒーの摂取量が多い方と少ない方が、追跡期間内にどれだけ代謝的に不健康な表現型に罹患したかを検討するなど、更なる研究が必要であると考えられます。
出典:
- Watanabe T, Arisawa K, Nguyen TV, Ishizu M, Katsuura-Kamano S, Hishida A, Tamura T, Kato Y, Okada R, Ibusuki R, Koriyama C, Suzuki S, Otani T, Koyama T, Tomida S, Kuriki K, Takashima N, Miyagawa N, Wakai K, Matsuo K; Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study Group.
Coffee and metabolic phenotypes: A cross-sectional analysis of the Japan multi-institutional collaborative cohort (J-MICC) study. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2023; 33(3):620-630.