喫煙と炎症性サイトカイン遺伝子多型が血糖指標ヘモグロビンA1c に及ぼす影響

研究ファイルNo.35:炎症性サイトカインIL-1βの遺伝子多型により喫煙が血糖値に与える悪影響が異なる可能性

タバコを吸うと、肺がんや脳卒中、心筋梗塞だけではなく糖尿病にも罹りやすくなります。糖尿病は、血糖値とその指標であるヘモグロビンA1cが異常に高くなる病気です。タバコを吸うと体内の炎症レベルが高まるので、その炎症反応によって血糖値やヘモグロビンA1cの上昇が引き起こされると考えられています。タバコと同様に体内の炎症レベルを左右する要因として、炎症性サイトカインの遺伝子多型があります。遺伝子多型とは、個人個人の遺伝子の違いです。例えば、IL-1βという炎症性サイトカインの遺伝子多型(多型の名称:T-31C)にはTT型、CT型、CC型の3つのタイプがあり、TT型では体内の炎症が起こりやすいことが報告されています。

私たちは、J-MICC研究に参加された2,619 人(男性1,274名、女性1,345名)を対象として、喫煙状況とIL-1β遺伝子多型(T-31C)を含む8つの炎症性サイトカイン遺伝子多型が、ヘモグロビンA1cに及ぼす影響について調査しました。統計解析の結果、IL-1β遺伝子多型(T-31C)のTT型をもつ人(761名 [研究参加者全体の29%])では、1日20本以上の喫煙によって明らかなヘモグロビンA1c値の悪化やヘモグロビンA1c高値(≥5.7%)のリスク増加が認められました(図1AとB)。一方、CT型(1274名 [49%])(図1CとD)とCC型(584名 [22%])(図1EとF)では、TT型のような明白な悪影響はみられませんでした。

3つの遺伝子型(TT型、CT型、CC型)のどのタイプであっても、タバコがさまざまな健康障害を引き起こす恐れがあることは言うまでもありません。しかし、今回の研究により、TT型(日本人の約3割)は、ヘモグロビンA1cを高くする喫煙の弊害がとりわけ大きい可能性があることが分かりました。仮に、自分自身がTT型であることが分かれば、禁煙するモチベーションにつながるのではないでしょうか。将来的には、この研究成果が、個人個人の遺伝的背景を考慮した喫煙防止対策に役立てられることが期待されます。

図1

出典:

  • Nishida Y, Hara M, Sakamoto T, Shinchi K, Kawai S, Naito M, Hamajima N, Kadota A, Suzuki S, Ibusuki R, Hirata A, Yamaguchi M, Kuriyama N, Oze I, Mikami H, Kubo M, Tanaka H, for the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study Group. Influence of cigarette smoking and inflammatory gene polymorphisms on glycated hemoglobin in the Japanese general population. Prev Med Rep 2016; 3: 288-295.
カテゴリー: J-MICC研究概要, たばこ, 遺伝子多型 パーマリンク