研究ファイルNo.50:軽い身体活動・運動が血中アディポネクチンを改善する可能性
脂肪細胞は健康上有害ないろいろな物質を分泌しますが、意外なことに有益なものも分泌しています。それがアディポネクチンです。アディポネクチンには、血糖値を改善する効果や動脈硬化を予防する効果が認められており、寿命を延ばす効果も期待されています。では、どうすればアディポネクチンを増やすことが出来るのでしょうか?身体活動・運動がアディポネクチンを増やすという先行研究の報告があります。しかし現時点では、どれぐらいの強さの身体活動・運動が効果的なのか、さらに他の生活習慣が身体活動・運動の効果にどのような影響を与えるのか、未だよく分かっていません。
そこで今回、J-MICC佐賀地区研究のベースライン調査に参加した約12,000名を対象に、加速度計付き歩数計を使って強度別に評価した身体活動・運動と血中アディポネクチン濃度(総アディポネクチン・高活性型の高分子量アディポネクチン)の関連について検討しました。その結果、座位時間(座っている時間)60分を低強度の身体活動・運動(歩行レベル以下の軽い活動)60分に置き換えると、高活性型アディポネクチンの血中濃度が10%程度高値を示すことが分かりました(図1)。加えて、コーヒー摂取、喫煙、月経状況により、身体活動・運動によるアディポネクチン上昇効果が増大または減弱することも分かりました。例えば、女性において、コーヒーを1日1杯以上飲む人の方が殆どコーヒーを飲まない人よりも、低強度身体活動・運動によるアディポネクチンを増やす効果が大きい可能性が示唆されました。一方、男性では、そのようなコーヒー摂取の影響はみられませんでした。
以上の結果より、ウォーキングやランニングでなくても、座っている時間を歩行レベル以下の軽い身体活動・運動に変えるだけで、血中アディポネクチンの増加が期待できます。さらに、女性が1日1杯以上コーヒーを飲むと、低強度の身体活動・運動によるアディポネクチン増加効果がアップするかもしれません。
健康づくりは、身体活動・運動を習慣化できるかどうかが鍵です。身体活動・運動が不足している人は、まずは今よりも10分多く、日常的に体を動かすことを実践してみましょう。
図1.座位時間60分を低強度活動60分に置き換えたときの血中アディポネクチン濃度(総アディポネクチン・高分子量アディポネクチン)に対する効果
出典:
- Nishida Y, Higaki Y, Taguchi N, Hara M, Nakamura K, Nanri H, Imaizumi T, Sakamoto T, Shimanoe C, Horita M, Shinchi K, Tanaka K. Intensity-Specific and Modified Effects of Physical Activity on Serum Adiponectin in a Middle-Aged Population. Journal of the Endocrine Society 2019; 3 (1): 13-26.