メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連:日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究

研究ファイルNo.79:メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連

 メタボリック症候群は、腹部肥満、血圧高値、脂質異常症、高血糖など心血管疾患の危険因子が集積している状態です。メタボリック症候群は、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクが高く、現在、我が国のみならず世界中で大きな公衆衛生上の問題となっています。しかし、これまで、メタボリック症候群とがん死亡率の関連性に関する疫学研究では一致した結果は得られていません。

 近年、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満という概念が提唱されています。肥満を、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満に分類することは、慢性疾患の発症リスクの高い、もしくは低い肥満者のサブグループを特定するのに有用である可能性があります。これまでのコホート研究では、代謝的に不健康な肥満は代謝的に健康な肥満よりも心血管疾患および全死因死亡のリスクが高いことが報告されています。

 本研究では、J-MICC研究において、メタボリック症候群とその構成要素ががん死亡率と関連しているかどうか、また、肥満と代謝的な健康状態によるがん死亡のリスクについても検討しました。

 今回の解析ではJ-MICC研究のベースライン調査参加時に40-69歳であった男性14,103人、女性14,451人を解析対象としました。メタボリック症候群は、National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III(NCEP-ATP III)の基準に従い、ウエスト周囲径の代わりにBody Mass Index(BMI)を用いて診断しました。また、日本肥満学会の基準も適用し、ウエスト周囲径の代わりにBMIを使用しました。正常体重の被験者(BMI <25kg/m2)は、代謝的に不健康な正常体重または代謝的に健康な正常体重に分類しました(それぞれメタボリック症候群の構成要素が1つ以上あり、または、なし)。同様に、肥満者(BMI≧25kg/m2)は、代謝的に不健康な肥満または代謝的に健康な肥満に分類しました(それぞれ、BMI以外のメタボリック症候群の構成要素が1つ以上あり、または、なし)。

 平均6.9年間の追跡期間に192人のがん死亡がありました。NCEP-ATP III基準を用いた場合には、メタボリック症候群とがん死亡率との間に有意な関連は認められませんでした(ハザード比[HR] =1.09、95%信頼区間[95%CI] 0.78-1.53)。一方、日本肥満学会の基準によるメタボリック症候群は、がん死亡率と正の関連を示しました(HR=1.51、95%CI 1.04-2.21](図1,2)。メタボリック症候群の構成要素の数、空腹時血糖値の上昇、および代謝的に不健康な肥満は、がん死亡率と有意な正の関連を示しました(P <0.05)。臓器別の解析では、日本肥満学会の基準によるメタボリック症候群と大腸がん死亡率との間に正の関連が認められました(HR=2.95、95%CI 1.04-8.40]。

 結論として、日本肥満学会の基準を用いた場合、メタボリック症候群と全がん死亡率との間に有意な関連が認められ、メタボリック症候群構成要素の数の増加は、がん死亡のリスク上昇と関連していました。構成要素別の解析では、高血糖のみが全がん死亡のリスク上昇と関連していました。また、代謝的に不健康な肥満では代謝的に健康な正常体重よりもがん死亡率が高いことが示唆されました。生物学的メカニズムとしては、高インスリン血症に伴う肝臓におけるInsulin-like growth factor-1の産生増加、肥満に伴う酸化ストレス、炎症などが考えられました。本研究の結果は、メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満、特に血糖値が高い被験者におけるがんの予防と管理に有用な情報を提供するものです。メタボリック症候群、代謝的に不健康な肥満、および代謝的に健康な肥満のがん罹患リスクに及ぼす影響を確認するために、さらなる研究が必要と考えられます。

出典:

  • Tien Van Nguyen, Kokichi Arisawa, Sakurako Katsuura-Kamano, Masashi Ishizu, Mako Nagayoshi, Rieko Okada, Asahi Hishida, Takashi Tamura, Megumi Hara, Keitaro Tanaka, Daisaku Nishimoto, Kenichi Shibuya, Teruhide Koyama, Isao Watanabe, Sadao Suzuki, Takeshi Nishiyama, Kiyonori Kuriki, Yasuyuki Nakamura, Yoshino Saito, Hiroaki Ikezaki, Jun Otonari, Yuriko N. Koyanagi, Keitaro Matsuo, Haruo Mikami, Miho Kusakabe, Kenji Takeuchi, Kenji Wakai. Associations of metabolic syndrome and metabolically unhealthy obesity with cancer mortality: The Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) study. PLoS One 2022; 17: e0269550.
カテゴリー: がん, メタボリックシンドローム, 肥満 パーマリンク