研究ファイルNo.80:遺伝的多型の総合スコア(ポリジェニックリスクスコア)と高血圧
近年のゲノム医学研究では、疾患の遺伝的な要因を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が盛んに行われ、疾患と関連する遺伝的変異がこれまでに多く同定されてきました。GWASに続く研究の1つとして、遺伝的変異の総合スコア(いわゆるポリジェニックリスクスコア)が疾患の診断・予測に有用であることが欧米人集団を中心に報告されていました。一方で、遺伝的な背景や生活様式の異なる他の集団ではPRSの精度が低いことも報告されていました。
そこで、J-MICC研究の参加者のうち遺伝子型を同定している12,000人でPRSを計算し、高血圧の保有率、収縮期血圧や拡張期血圧との関連を横断的に調査しました。PRSを計算するための各遺伝的変異の効果量については、バイオバンクジャパンで行われたGWAS結果を参考にしました。高血圧の基準については、1)収縮期血圧が130mmHg以上、2)拡張期血圧が85mmHg以上、3)降圧剤の服薬のいずれかに該当する者としました。
PRSの値に基づいて対象者を5つのグループに均等に分割してみると、高血圧保有の割合(%)はPRSの低いグループからそれぞれ41.3%、44.9%、46.2%、51.5%、59.5%でした。これは、PRSが高いほど実際に高血圧保有者が多いことを反映した結果です。さらに、収縮期血圧について、平均的なPRS群(Q3)に対して、最もPRSが高いグループ(Q5)では平均して4.6mmHg高いことが分かりました(図1左)。また、拡張期血圧でも同様に、最もPRSが高いグループでは平均して2.32mmHg血圧が高いことが分かりました(図1右)。
さらに、喫煙の有無や飲酒の有無などの生活習慣と組み合わせることによって、リスクの層別化が行えることも示唆されました。また、PRSの計算に欧米人集団の研究を用いた場合、統計学的に有意な関連は見られませんでした。これは、PRSの計算はそれぞれの集団ごとに行うことの有用性が改めて示された結果です。
今回の研究成果は、遺伝的スコアの有用性について、1)血圧を事例として日本人の一般集団(患者集団でない)で改めて検証したこと、2)生活習慣との組み合わせを検証したことに意義があります。今後は、罹患や死亡などを収集している追跡データを活用し、妥当性の高いPRSの計算方法や生活習慣と組み合わせた層別化など個別化した予防医療を実現するための疫学研究を計画しています。
出典:
- Fujii R, Hishida A, Nakatochi M, Tsuboi Y, Suzuki K, Kondo T, Ikezaki H, Hara M, Okada R, Tamura T, Shimoshikiryo I, Suzuki S, Koyama T, Kuriki K, Takashima N, Arisawa K, Momozawa Y, Kubo M, Takeuchi K, Wakai K; J-MICC Study Group. Associations of genome-wide polygenic risk score and risk factors with hypertension in a Japanese population. Circ Genom Precis Med. 2022;15:e003612.