睡眠薬を使用している不眠症の性・年齢特異的な死亡リスク

研究ファイルNo.82:睡眠薬を服用している不眠症の死亡リスク

 不眠症は、睡眠時間が十分に取れないことや睡眠の質が低下することで日中の疲労、集中力の低下などが起こり、生活に支障をきたす状態です。不眠症と死亡が関連性を示した報告がありますが一貫した結果が得られておりません。睡眠薬の使用も死亡リスクを上昇させる可能性が示唆されており、不眠症治療を受けている人の併存疾患による影響を考慮した睡眠薬の服用と死亡リスクとの関連についての研究はなされていませんでした。そこで本研究では睡眠薬の服用と死亡との関連について、がんや生活習慣病などの併存疾患の影響を考慮した検討を行いました。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)に参加された方のうち、追跡開始から2年以内の死亡、およびベースライン時に癌の病歴を有する方を除外し、35‐69歳の61,646名を対象としました。糖尿病、循環器疾患の併存を考慮した解析後も、睡眠薬を週1回以上定期的に服用していた2,568名(4.2%)の死亡リスクは、服用していない人の1.32倍であり(図1)、服用者では、循環器系、神経系、損傷、中毒、および外的要因による死因が多いことも示されました。また、男性では1.51倍、60歳未満の人で1.75倍と死亡リスクが服用者の年齢や性別で異なることもわかりました(図2)。

 本研究における睡眠薬の服用は質問紙による調査であることや薬の種類、服用頻度が不明なこと、一時点の調査であることに注意が必要です。今回の結果から、不眠症で睡眠薬を服用している人の死亡リスクが高いこと、特に男性と 60歳未満の方では注意を要することが示されました。本研究のデータを収集した2014年以降は不眠症の薬物療法の選択肢も広がっていることから、より安全で効果的な長期的予後を見据えた不眠症の薬物療法を行うことが重要だと考えられます。

出典:

  • Sogawa R, Shimanoe C, Tanaka K, Hara M, Nishida Y, Furukawa T, Nagayoshi M, Hishida A, Kubo Y, Kato Y, Oze I, Ito H, Nakamura Y, Kusakabe M, Tanoue S, Koriyama C, Suzuki S, Otani T, Matsui D, Watanabe I, Kuriki K, Takashima N, Kadota A, Watanabe T, Arisawa K, Ikezaki H, Otonari J, Wakai K, Matsuo K ; Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study.  Sex- and age-specific all-cause mortality in insomnia with hypnotics: Findings from Japan multi-institutional Collaborative Cohort Study. Sleep Med. 2022; 100:410-418.
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