研究ファイルNo.84:自覚ストレスおよび対処行動は腎機能に影響を与える
末期腎不全(End-Stage Renal Disease: ESRD)による透析患者は増加しており、2017年末に33万人を超えました。透析にかかる医療費は、年間1兆6000億に上ると推計され、総医療費の4%を占め医療経済上の大きな問題となっています。また、経済面のみならず患者の生活の質や生命予後にも影響を及ぼすと報告されています。慢性腎不全(Chronic Kidney Disease: CKD)は、腎機能の低下が慢性的に続く病気で、CKDの早期診断と管理がESRDの予防に重要です。CKDの危険因子は、喫煙、飲酒、肥満などが報告されていますが、腎機能低下における心理社会的要因の役割は解明されていません。そこで、本研究では、自覚ストレスおよび対処行動(感情表出、支援希求、肯定的解釈、積極的問題解決、なりゆきまかせ)と腎機能(eGFR値)の関連を調べました。eGFR値とは腎臓の機能を示す指標で、値が低いほど腎臓の働きが低下していることを示します。
日本多施設共同コホート研究(J-MICC study)のベースライン調査に参加した中高年の男性31,703人、女性38,939人を対象に分析した結果、男性では、自覚ストレスが高いほどeGFR値が低い結果がみられましたが、女性ではみられませんでした(図1)。この男性特有の結果は、高血圧と糖尿病の病歴を調整した後にわずかに弱まり、感情表出のレベルが低いほど顕著でした (図2)。予想に反して、男性の積極的問題解決と女性の肯定的解釈もeGFR値の低下を示しました(図1)。
このことから、自覚ストレスは、部分的に高血圧と糖尿病の発症を介して、eGFR値に影響を与える可能性が考えられました。対処行動に関する予想外の発見は、ホルモンおよび免疫学的側面を含むメカニズムの解明が今後必要です。
出典:
- Koga K, Hara M, Shimanoe C, Nishida Y, Furukawa T, Iwasaka C, Tanaka K, Otonari J, Ikezaki H, Kubo Y, Kato Y, Tamura T, Hishida A, Matsuo K, Ito H, Nakamura Y, Kusakabe M, Nishimoto D, Shibuya K, Suzuki S, Watanabe M, Ozaki E, Matsui D, Kuriki K, Takashima N, Kadota A, Arisawa K, Katsuura-Kamano S, Takeuchi K, Wakai K. Association of perceived stress and coping strategies with the renal function in middle-aged and older Japanese men and women. Scientific Reports. 2022; 12: 291.