ストレス対処行動と全死亡との男女別の関係:J-MICC研究

研究ファイルNo.85:ストレス対処行動は死亡リスク低下と関連する? 男女でどう違う?

 
 「ストレス」とは、外部から刺激(ストレッサー)を受けたときに生じる緊張状態(ストレス反応)のことで、この反応には、心理的反応、身体的反応、行動変化などがあります。ストレス反応は適応反応であり、必ずしも健康に悪影響するとは限りませんが、過度のストレスが長期間続くことで健康に悪影響を及ぼすことが分かっています。

 一方、「ストレスへの対処行動」は、強いストレス状況や出来事への認知的・行動的な反応であり、ストレスへの脆弱性を左右することが知られています。また、ストレスやストレス対処行動には、男女で差があることが分かっています。

 よって、ストレス対処行動によって、長期的な健康影響である全死亡リスクに差があること、それらの関連には男女差があることが考えられますが、これまでの研究結果では、大規模研究が少ない、健康な一般集団を対象とした報告はほとんどない、自覚的ストレスレベルを考慮した検証がされていない、男女別の検証がされていないなどの限界がありました。そこで私たちは、日本の大規模疫学研究である日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)の参加者を対象に、ストレス対処行動が、自覚的なストレスの強さとは独立して、全死亡と関係するか男女別の関係と、男女差について検証しました。

 分析対象者は、2004年~2014年にJ-MICC研究に参加した35-69歳の男女 92,560人のうち、がん・循環器疾患既往者、追跡2年以内の死亡例、主要項目に欠損がある者を除外した79,580人としました。

 質問紙調査によって、5つのストレス対処行動(感情表出、[感情的な]支援希求、肯定的解釈、積極的問題解決、なりゆきまかせ)の実施頻度を4段階(ほとんどない、たまに、よく、非常によくある)で聴取しました。最近1年間の自覚的なストレスは4段階(まったく感じかなった、あまり感じかなった、多少感じた、おおいに感じた)で把握しました。

 統計解析を行い、男女それぞれストレス対処行動ごとの全死亡リスクがどの程度異なるかを計算しました。また、性別により関連に違いがあるかどうかも確認しました。

Cox比例ハザードモデルを使って、自覚的ストレス等の共変量を調整して、男女別にストレス対処行動ごとのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出しました。なお、比例ハザード性が成り立たない場合は、区間の中央値で分けて区間ごとの関連を計算しました。性別により関連に違いがあるかどうかは、交互作用項をモデルに含めて確認しました。

 研究対象者を約8.5年間(中央値)追跡したところ、1,861人(女性645人、男性1,216人)が亡くなりました。図1は、ストレス対処行動の頻度と自覚的ストレスの分布です。女性(上段)と男性(下段)で、ストレス対処行動の実施頻度がほぼ同じであることが分かります。最も大きな違いは、感情的な支援希求の実施頻度で、約8割の女性が「たまに」以上支援希求を行うのに対し、男性では半数以上が「ほとんどない」と回答していました。自覚的ストレスを「おおいに感じた(紫色)」割合は、女性の方が大きいですが、分布としては男女で似ていることが分かりました。

図1.男女別ストレス対処行動の頻度と自覚的ストレスの分布

 図2は、ストレス対処行動と全死亡との関係を示しています。(男女の積極的問題解決、男性の感情表出と肯定的解釈では比例ハザード性が成り立たなかったので、比例ハザード性が成り立つ区間に分けて全死亡リスクを計算しました)。その結果、感情表出、支援希求、なりゆきまかせを「たまに」行う女性では、「ほとんどない」と回答した人と比較して、約20%全死亡リスクが低いことが分かりました。男性では、感情表出を「たまに」行う者、肯定的解釈、積極的問題解決を「たまに」「よく/非常によく」行う者では15–41% 全死亡リスクが低く、その関係は観察期間によって異なることか分かりました。(具体的には、感情表出と積極的問題解決については5.5-8.5年間追跡できた方、肯定的解釈については、8.5年以上追跡できた方で、その他の方々よりも顕著な関連が観察されました。) なお、感情的な支援希求と全死亡との関係には、男女差があることが分かりました(p for interaction = 0.03)。

図2.ストレス対処行動と全死亡との関係

分析モデルで調整した項目: 年齢、教育歴、喫煙状況、飲酒状況、身体活動レベル(日常・余暇)、十分な睡眠がとれているかどうか、BMI、既往歴(高血圧・糖尿病)、遺伝素因(父母のがん既往歴)、自覚的ストレス

 本研究は、日本の大規模集団において、ストレス対処行動の種類とその頻度は、自覚的ストレスの程度とは独立して、全死亡リスク低さと関係する可能性を示しました。ストレス対処行動と全死亡との関係には男女差が認められ、感情的な支援希求は、女性で全死亡リスクの低さと関係しました。今後、本研究の一般化可能性の検証と、男女差を含めたメカニズムの解明を行うとともに、介入対象に合わせた死亡リスク低減対策のための介入方法や有効性に関して更なる研究が必要であると考えられます。

 

出典:

  • Mako Nagayoshi, Kenji Takeuchi, Yudai Tamada, Yasufumi Kato, Yoko Kubo, Rieko Okada, Takashi Tamura, Asahi Hishida, Jun Otonari, Hiroaki Ikezaki, Yuichiro Nishida, Chisato Shimanoe, Yuriko N Koyanagi, Keitaro Matsuo, Haruo Mikami, Miho Kusakabe, Daisaku Nishimoto, Keiichi Shibuya, Sadao Suzuki, Takeshi Nishiyama, Etsuko Ozaki, Isao Watanabe, Kiyonori Kuriki, Naoyuki Takashima, Aya Kadota, Kokichi Arisawa, Sakurako Katsuura-Kamano, Kenji Wakai, for the J-MICC Study. Sex-specific relationship between stress coping strategies and all-cause mortality: Japan multi-institutional collaborative cohort study. J Epidemiol 2021; JE20210220. doi: 10.2188/jea.JE20210220. Online ahead of print.
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