慢性腎臓病の罹りやすさと脂質代謝遺伝子

研究ファイルNo.27:日本人の慢性腎臓病の罹りやすさは脂質代謝遺伝子の影響を
受ける可能性がある

 慢性腎臓病とは、腎臓の中の尿をろ過する腎糸球体という毛細血管の様なものでできた装置が目詰まりを起こして腎臓の機能が低下し、悪化すると透析が必要な末期の腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしたりして命に関わる怖い病気です。日本での患者数は1,000万人を超えると言われており、年々増える傾向にあります。この病気の原因としては、糖尿病、高血圧などがよく知られていますが、動物実験や疫学調査のデータなどから、脂質異常症も原因の1つではないかと考えられています。
 そこで、私たちは今回、J-MICC研究に参加された3,268名の方々において、脂質代謝に関わる17個の遺伝子の配列の中にある28個の遺伝子多型が、慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について調べました。

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血液中の中性脂肪値に関連する遺伝子多型

研究ファイルNo.26:near MC4R遺伝子多型は中性脂肪血中濃度に影響を与えている

 私たちの血液中の中性脂肪の値は、高すぎると脂肪肝や動脈硬化を引き起こすことが知られています。血液中の中性脂肪は、ほとんどが食事由来であり、肝臓でも合成されますが、遺伝の影響もその量に関係している可能性が考えられます。中性脂肪値は太っている人で高い傾向があり、食欲の調節(食欲の抑制)にかかわるメラノコルチン4受容体 (MC4R)というタンパク質の遺伝子近くに変異(遺伝子多型)を持つ人には肥満が多いことが知られています。しかし、この遺伝子多型と中性脂肪値との関連は明らかになっていません。

 そこで、私たちはJ-MICC研究に参加された2,035人の方のnear MC4R遺伝子多型と中性脂肪値との関連について調べました。
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日常の身体活動と血中炎症性サイトカイン濃度の関連

研究ファイルNo.25:身体活動の増加が炎症を改善する可能性

血液中に炎症性の物質が増えると、動脈硬化や糖尿病、がん等さまざまな生活習慣病のリスクが高まります。過剰に蓄積した内臓脂肪からサイトカインと呼ばれる炎症性の物質が血液中に放出されますが、近年、運動不足によって衰えた筋肉からも数種類の炎症性のサイトカインが放出されるということが分かってきました。内臓脂肪に加えて不活動な筋肉からも炎症性サイトカインが放出されれば、それらの炎症性物質の血中濃度はさらに上昇してしまいます。

先行研究により、血液中のいくつかの炎症性物質(例えば、C-reactive protein[CRP:シー・アール・ピー]やInterleukin[IL]-6[アイ・エル・シックス]と呼ばれるもの)が、日常の身体活動の増加により改善(減少)することが報告されています。しかし殆どの先行研究では、対象者自身が記入するタイプの調査票を用いて身体活動の評価が行われており、客観的に測定された正確性の高いものではありません。加えて、上述のCRPやIL-6以外の他の筋肉由来の炎症性物質(例えば、IL-8やIL-15等)への身体活動の影響についてはこれまでにほとんどわかっていません。
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hOGG1遺伝子多型と肥満との関連は、居住地域の影響を受ける

研究ファイルNo.24:日本人におけるhOGG1 Ser326Cys遺伝子多型と肥満の関連は、居住地域の影響を受ける

肥満は糖尿病発症の危険因子ですが、その機序の一つとして肥満による脂肪の蓄積が酸化ストレスを引き起こし、酸化ストレスの増大によるDNA損傷がインスリン抵抗性や糖尿病の発生に関与している可能性が考えられています。

ヒト8―オキソグアニンDNAグリコシラーゼ (hOGG1) はDNA修復酵素の1つで、hOGG1遺伝子の多型のCys型を持つ人は、Ser/Ser型の人に比べてDNA損傷の修復能が低いことが知られています。また、Cys型を持つ人はSer/Ser型の人に比べて糖尿病発生が高いことが報告されていますが、その機序については明らかではありません。近年、動物実験においてOGG1の遺伝子多型と肥満の有意な関連が報告されたことから、hOGG1遺伝子の多型が肥満を介して糖尿病の発生と関連している可能性が考えられますが、人での検討は十分ではありませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された1,793人において、hOGG1の遺伝子の多型と肥満の関連について検討を行いました。 続きを読む

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HDL-コレステロール血中濃度と遺伝子多型

研究ファイルNo.23:善玉コレステロールであるHDL-コレステロール血中濃度には複数の遺伝的要因が関わっている

善玉コレステロールであるHDL-コレステロールの血中濃度が低いと動脈硬化が進みやすくなり、冠動脈心臓病や脳血管疾患を発症しやすくなります。HDL-コレステロール値を増やす生活習慣としては運動や食事が重要です。一方、HDL-コレステロール値の個人差については、複数の遺伝子多型が影響しているとの報告はあるものの、生活習慣と合わせた上で、総合的にこれら遺伝子多型がどの様に影響を及ぼしているかは良く解っていません。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,050人の方のABCA1, APOA1, SR-B1, CETPの遺伝子の型と生活習慣がHDL-コレステロール値に及ぼす影響について検討を行いました。 続きを読む

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自覚ストレスとストレス対処行動が男性において炎症の低下と関連している

研究ファイルNo.22:自覚ストレスおよび対処行動の炎症検査値(高感度CRP)との性・年令特異的な関連

心理的なストレスは循環器疾患のリスクを上昇させることが報告されてきました。そのメカニズムとして、心理ストレスが体内の炎症を悪化させ、その結果として循環器疾患にかかりやすくなる可能性が示唆されてきましたが、今までの研究結果は一致していませんでした。また、同じストレスを感じても,ストレスをどう受け止め,対応したのか(ストレス対処行動)で炎症状態が変化する可能性もありますが、まだ十分な検証が行われていません。

そこで、今回、J-MICC研究佐賀地区に参加された12,069名において炎症検査の一つである高感度CRP (CRP) と自覚ストレスおよび対処行動との関連について検討しました。

その解析の結果、当初の予想に反して、特に60代男性では自覚ストレスが高いとCRPが低く、これまで考えられてきたこととは逆の関連であることが分かりました(図1a)。また、40代男性で「なりゆきまかせにする」という対処行動をする人ほどCRPが低いことが分かりました(図1b)。さらに、自覚ストレスが高い男性で、「身近な人に相談して励ましてもらう」という対処行動を行うとCRPが低いことも分かりました(図2)。これらの関連は女性にはみられませんでした。 続きを読む

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PPAR遺伝子多型と慢性腎臓病の罹りやすさ

研究ファイルNo.21:日本人における慢性腎臓病の罹りやすさに影響を与えうるPPAR遺伝子

慢性腎臓病とは、糖尿病や高血圧などが原因となって、腎臓内で尿をろ過する腎糸球体という毛細血管の様なものでできた装置が目詰まりを起こし、放置すると透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を起こしやすくなったりする状態のことを言います。日本における慢性腎機能障害の患者数は推計1,000万人以上と言われ、年々増加傾向にあります。PPAR(ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)は、脂肪酸などに反応する核内受容体であり、糖代謝や脂肪酸代謝、エネルギーバランス、炎症や動脈硬化、といった多くの全身や細胞内の機能において役割を果たしていることが分かってきています。PPARには主にPPAR-α、PPAR-γ、PPAR-δの3種類あることが分かっており、それぞれに少しずつ違った働きをしています。その中で、PPAR-γ(遺伝子名:PPARG)は脂質代謝や糖尿病のなりやすさ、PPAR-δ(遺伝子名:PPARD)はエネルギー代謝や筋肉・脂肪組織内の脂質の分解や、糖尿病のなりやすさに関連があることが報告されています。また、PPAR-γと相互作用する分子としPGC-1α(遺伝子名:PPARGC1A)という分子が知られています。近年、これらのPPAR分子の代謝等における様々な働きから、PPAR分子の慢性腎臓病発生における役割が注目されています。しかしながら、これらPPAR遺伝子の多様性(遺伝子多型)が、日本人における慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはまだ十分に検証されていませんでした。 続きを読む

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日本人の慢性腎臓病の罹りやすさは、糖質の代謝に関わるある遺伝子と、タバコとの複合的作用によって決まる可能性がある

研究ファイルNo.20:慢性腎臓病発症リスクにおける遺伝子多型と喫煙の交互作用

慢性腎臓病とは、主に糖尿病や高血圧が原因となって、腎臓内で尿をろ過する毛細血管の様なものでできた装置である腎糸球体が目詰まりを起こし、気づかずに放置しておくと、透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしやすくなったりする状態を言います。日本人における慢性腎機能障害の患者数は推計1,000万人以上と言われ、また年々増加傾向にあり、わが国においても慢性腎臓病に対する予防対策は緊急課題です。一方、これまでに、糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の個人間における配列の違い(=遺伝子多型)が、2型糖尿病などの糖質代謝異常症の罹りやすさに関係していることが報告されており、また近年のゲノムワイド関連解析研究(GWAS)において、糖質代謝遺伝子の一つであるGCKRの遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに有意に関連があることが報告されました。しかしながら、これら遺伝子多型と、タバコ・飲酒などの生活要因との複合的作用(=交互作用)が、慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはまだ十分には検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,324名の方の糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の多型とタバコ・飲酒などの生活要因が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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葉酸の代謝に関わる遺伝子の違いは、慢性腎臓病の発症に関連する可能性が

研究ファイルNo.19:慢性腎臓病発症に関連する葉酸遺伝子多型

慢性腎臓病とは、糖尿病や高血圧などが原因となって血液から尿をろ過する本来の腎臓の働きが低下し、そのまま放置すると、透析が必要な腎不全や心血管疾患になりやすくなる状態を言います。日本人における慢性腎臓病患者は、推計1,000万人以上で年々増加傾向にあり、わが国においても慢性腎臓病の予防対策は重要課題です。

一方、葉酸は緑茶やブロッコリー、その他緑の葉の野菜に多く含まれる栄養素で、葉酸の摂取不足は、炎症と呼ばれる体内の生体反応を介して動脈硬化を引き起こし、これが原因となって慢性腎臓病に罹りやすくなることが考えられます。この葉酸の代謝に関する酵素はいくつか知られており、MTHFR, MTR, MTRRなどがあり、それらの働きに影響を与える遺伝的要因(個人による遺伝子の塩基配列の違い=遺伝子多型)も報告されています。
しかしこれまで、これらの酵素の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響については、世界的にみても中国人の集団で一度検証されたのみで、日本人ではまだ検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,318名において各種の葉酸代謝の働きに影響を与える遺伝子(MTHFR, MTR, MTRR)の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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日本人の慢性腎臓病の発症に関連する遺伝体質の1つが新たに判明した

研究ファイルNo.18:慢性腎臓病発症に関連する抗酸化遺伝子多型

慢性腎臓病は、気づかずに放置しておくと透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしやすくする状態を言います。日本人における慢性腎不全の患者数は、推計1,000万人以上とも言われており、また年々増加傾向にあり、慢性腎臓病に対する予防対策が急がれます。一方、ウイルスなどの異物が入って引き起こす、炎症と呼ばれる体内の生体反応は、動脈硬化を引き起こし、これが原因となって慢性腎臓病に罹りやすくなることが報告されており、この炎症において、活性酸素などにより引き起こされる酸化ストレスは、炎症が動脈硬化を生じる上で重要な役割を果たしていると考えられています。酸化ストレスを解毒する酵素はいくつか知られており、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などがあり、それらの活性に影響を与える遺伝的要因(個人による遺伝子の塩基配列の違い=遺伝子多型)も報告されています。

しかしこれまで、これらの酵素の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはアジア人では検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,285名において各種抗酸化遺伝子(SOD, CAT, GPx, 等)の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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