自覚ストレスとストレス対処行動が男性において炎症の低下と関連している

研究ファイルNo.22:自覚ストレスおよび対処行動の炎症検査値(高感度CRP)との性・年令特異的な関連

心理的なストレスは循環器疾患のリスクを上昇させることが報告されてきました。そのメカニズムとして、心理ストレスが体内の炎症を悪化させ、その結果として循環器疾患にかかりやすくなる可能性が示唆されてきましたが、今までの研究結果は一致していませんでした。また、同じストレスを感じても,ストレスをどう受け止め,対応したのか(ストレス対処行動)で炎症状態が変化する可能性もありますが、まだ十分な検証が行われていません。

そこで、今回、J-MICC研究佐賀地区に参加された12,069名において炎症検査の一つである高感度CRP (CRP) と自覚ストレスおよび対処行動との関連について検討しました。

その解析の結果、当初の予想に反して、特に60代男性では自覚ストレスが高いとCRPが低く、これまで考えられてきたこととは逆の関連であることが分かりました(図1a)。また、40代男性で「なりゆきまかせにする」という対処行動をする人ほどCRPが低いことが分かりました(図1b)。さらに、自覚ストレスが高い男性で、「身近な人に相談して励ましてもらう」という対処行動を行うとCRPが低いことも分かりました(図2)。これらの関連は女性にはみられませんでした。 続きを読む

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PPAR遺伝子多型と慢性腎臓病の罹りやすさ

研究ファイルNo.21:日本人における慢性腎臓病の罹りやすさに影響を与えうるPPAR遺伝子

慢性腎臓病とは、糖尿病や高血圧などが原因となって、腎臓内で尿をろ過する腎糸球体という毛細血管の様なものでできた装置が目詰まりを起こし、放置すると透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を起こしやすくなったりする状態のことを言います。日本における慢性腎機能障害の患者数は推計1,000万人以上と言われ、年々増加傾向にあります。PPAR(ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)は、脂肪酸などに反応する核内受容体であり、糖代謝や脂肪酸代謝、エネルギーバランス、炎症や動脈硬化、といった多くの全身や細胞内の機能において役割を果たしていることが分かってきています。PPARには主にPPAR-α、PPAR-γ、PPAR-δの3種類あることが分かっており、それぞれに少しずつ違った働きをしています。その中で、PPAR-γ(遺伝子名:PPARG)は脂質代謝や糖尿病のなりやすさ、PPAR-δ(遺伝子名:PPARD)はエネルギー代謝や筋肉・脂肪組織内の脂質の分解や、糖尿病のなりやすさに関連があることが報告されています。また、PPAR-γと相互作用する分子としPGC-1α(遺伝子名:PPARGC1A)という分子が知られています。近年、これらのPPAR分子の代謝等における様々な働きから、PPAR分子の慢性腎臓病発生における役割が注目されています。しかしながら、これらPPAR遺伝子の多様性(遺伝子多型)が、日本人における慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはまだ十分に検証されていませんでした。 続きを読む

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日本人の慢性腎臓病の罹りやすさは、糖質の代謝に関わるある遺伝子と、タバコとの複合的作用によって決まる可能性がある

研究ファイルNo.20:慢性腎臓病発症リスクにおける遺伝子多型と喫煙の交互作用

慢性腎臓病とは、主に糖尿病や高血圧が原因となって、腎臓内で尿をろ過する毛細血管の様なものでできた装置である腎糸球体が目詰まりを起こし、気づかずに放置しておくと、透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしやすくなったりする状態を言います。日本人における慢性腎機能障害の患者数は推計1,000万人以上と言われ、また年々増加傾向にあり、わが国においても慢性腎臓病に対する予防対策は緊急課題です。一方、これまでに、糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の個人間における配列の違い(=遺伝子多型)が、2型糖尿病などの糖質代謝異常症の罹りやすさに関係していることが報告されており、また近年のゲノムワイド関連解析研究(GWAS)において、糖質代謝遺伝子の一つであるGCKRの遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに有意に関連があることが報告されました。しかしながら、これら遺伝子多型と、タバコ・飲酒などの生活要因との複合的作用(=交互作用)が、慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはまだ十分には検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,324名の方の糖質代謝に関わる遺伝子(GCK, GCKR)の多型とタバコ・飲酒などの生活要因が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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葉酸の代謝に関わる遺伝子の違いは、慢性腎臓病の発症に関連する可能性が

研究ファイルNo.19:慢性腎臓病発症に関連する葉酸遺伝子多型

慢性腎臓病とは、糖尿病や高血圧などが原因となって血液から尿をろ過する本来の腎臓の働きが低下し、そのまま放置すると、透析が必要な腎不全や心血管疾患になりやすくなる状態を言います。日本人における慢性腎臓病患者は、推計1,000万人以上で年々増加傾向にあり、わが国においても慢性腎臓病の予防対策は重要課題です。

一方、葉酸は緑茶やブロッコリー、その他緑の葉の野菜に多く含まれる栄養素で、葉酸の摂取不足は、炎症と呼ばれる体内の生体反応を介して動脈硬化を引き起こし、これが原因となって慢性腎臓病に罹りやすくなることが考えられます。この葉酸の代謝に関する酵素はいくつか知られており、MTHFR, MTR, MTRRなどがあり、それらの働きに影響を与える遺伝的要因(個人による遺伝子の塩基配列の違い=遺伝子多型)も報告されています。
しかしこれまで、これらの酵素の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響については、世界的にみても中国人の集団で一度検証されたのみで、日本人ではまだ検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,318名において各種の葉酸代謝の働きに影響を与える遺伝子(MTHFR, MTR, MTRR)の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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日本人の慢性腎臓病の発症に関連する遺伝体質の1つが新たに判明した

研究ファイルNo.18:慢性腎臓病発症に関連する抗酸化遺伝子多型

慢性腎臓病は、気づかずに放置しておくと透析が必要な腎不全になったり、心血管疾患を引き起こしやすくする状態を言います。日本人における慢性腎不全の患者数は、推計1,000万人以上とも言われており、また年々増加傾向にあり、慢性腎臓病に対する予防対策が急がれます。一方、ウイルスなどの異物が入って引き起こす、炎症と呼ばれる体内の生体反応は、動脈硬化を引き起こし、これが原因となって慢性腎臓病に罹りやすくなることが報告されており、この炎症において、活性酸素などにより引き起こされる酸化ストレスは、炎症が動脈硬化を生じる上で重要な役割を果たしていると考えられています。酸化ストレスを解毒する酵素はいくつか知られており、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などがあり、それらの活性に影響を与える遺伝的要因(個人による遺伝子の塩基配列の違い=遺伝子多型)も報告されています。

しかしこれまで、これらの酵素の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響についてはアジア人では検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された3,285名において各種抗酸化遺伝子(SOD, CAT, GPx, 等)の遺伝子多型が慢性腎臓病の罹りやすさに与える影響について検討を行いました。

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肥満の糖尿病発症に及ぼす影響の強さは、ある遺伝的体質によって異なる

研究ファイルNo.17:糖尿病発症リスクにおける肥満度とレジスチン遺伝子多型の交互作用

日本では、座業中心の生活スタイルや食生活の欧米化などにより、糖尿病にかかる人が昔に比べて増えています。糖尿病に伴う糖の代謝異常により、虚血性心疾患や脳梗塞が起こりやすくなります。

レジスチンは脂肪細胞と脂肪組織内にある免疫細胞により作られるホルモンで、肥満により起こる糖尿病の発生に関係していると考えられており、近年、このレジスチンの遺伝子配列の個人間の多様性(RETN -420 C>G遺伝子多型)が、2型糖尿病の発症リスクに関係していることが報告されています。しかし、これら遺伝子多型と肥満や栄養摂取などの生活要因との複合的作用(=交互作用)が、糖尿病の発症リスクに与える影響は十分には検証されていませんでした。

そこで、今回、 続きを読む

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腎機能が悪くなりやすい遺伝子の型~その2

研究ファイルNo.16:細胞外基質分解酵素の遺伝子多型の組み合わせで変わる慢性腎臓病の割合

私たちの細胞を作っているコラーゲンなど細胞外基質を分解する蛋白を、マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalopretoinase、MMP)と言います。例えばオタマジャクシの尻尾が吸収されるのに関係していますが、人間ではこの酵素が多すぎると関節リウマチなどが、少なすぎると動脈硬化が進み心筋梗塞や脳梗塞などが増えることが分かっています。細胞外基質の合成と分解のバランスがいろいろな病気の予防に役立っています。

そこでJ-MICC研究に参加された3323人の方のマトリックスメタロプロテイナーゼの遺伝子多型と腎臓の機能との関連を調べました。 続きを読む

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HbA1c値への糖尿病危険因子の影響は、遺伝多型で変わる

研究ファイルNo.15: HbA1c値に対する糖尿病の危険因子の影響の強さは、PPARG2遺伝多型によって、異なる。

概要

HbA1c値は、1~2か月前の血糖の状態を反映し、糖尿病の診断や血糖管理に使用されるほか、その値が正常範囲内でも高い人では将来の糖尿病の発症リスクが高いことが知られています。糖尿病の危険因子として、加齢、肥満、エネルギー過多、不活動、喫煙などの生活習慣のほか、糖尿病の家族歴が確立していますが、近年、肥満や脂質代謝に関連する遺伝子のPPARG2がPro/Pro型の人に比べて、Pro/AlaまたはAla/Ala型の人で糖尿病のリスクが低いことが分かってきました。しかし、日本人一般集団において糖尿病の危険因子とPPARG2の遺伝子型がHbA1cに与える影響は十分に検証されていませんでした。

そこで、今回、J-MICC研究に参加された2,637人の方のPPARG2の遺伝子の型と糖尿病の危険因子がHbA1c値に及ぼす影響について検討を行いました。

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あまみ島嶼地域における動脈硬化

研究ファイルNo.14: あまみ島嶼地域住民は日本健常集団より動脈硬化の値が低い

鹿児島県のあまみ島嶼地域は長寿者の割合が多い地域です。一方、がんや心臓病、糖尿病などの生活習慣病は本土地域ほど多くはないものの、生活習慣の変化に伴い増加しつつあります。動脈硬化は心臓病や脳卒中、糖尿病に深く関わっています。

最近開発されたCardio-ankle vascular index (CAVI)通称「キャビ」は、動脈硬化の程度を数字で示すことができる測定方法の1つです。

J-MICC研究に参加されたあまみ島嶼地域の一般住民4,523名と、鹿児島県本土の一般住民440名の動脈硬化の値をキャビを用いて調べました。さらに、動脈硬化の危険要因を持っている人を除外した日本全国の健常集団5,969名の動脈硬化の値とも比較しました。

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脂質代謝異常症がおこりやすい遺伝子多型

研究ファイルNo.13: 脂質代謝異常症発症リスクにおける脂肪摂取と脂質代謝遺伝子多型の交互作用

現代日本においても、座位中心の不活発なライフスタイルや食生活の欧米化に起因すると考えられる虚血性心疾患、脳血管疾患はまだまだ国民の死亡原因の主因(がんに次いで第2位・第3位)を占めており、これまでの様々な研究によりコレステロール等の脂質代謝や糖質代謝の異常(脂質代謝異常症、糖質代謝異常症)がこれらの疾患のリスクを高めることが分かっています。
また、これまでに、これらの脂質・糖質代謝に関わる遺伝子(APOA5(脂質代謝), GCK, GCKR(糖質代謝))の個人間におけるバリエーション(=遺伝子多型)が、脂質代謝異常症、糖質代謝異常症の発症リスクに関係していることが 続きを読む

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