日本人集団におけるゲノムワイドなポリジェニックリスクスコアと高血圧との関連

研究ファイルNo.80:遺伝的多型の総合スコア(ポリジェニックリスクスコア)と高血圧

 近年のゲノム医学研究では、疾患の遺伝的な要因を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が盛んに行われ、疾患と関連する遺伝的変異がこれまでに多く同定されてきました。GWASに続く研究の1つとして、遺伝的変異の総合スコア(いわゆるポリジェニックリスクスコア)が疾患の診断・予測に有用であることが欧米人集団を中心に報告されていました。一方で、遺伝的な背景や生活様式の異なる他の集団ではPRSの精度が低いことも報告されていました。

 そこで、J-MICC研究の参加者のうち遺伝子型を同定している12,000人でPRSを計算し、高血圧の保有率、収縮期血圧や拡張期血圧との関連を横断的に調査しました。PRSを計算するための各遺伝的変異の効果量については、バイオバンクジャパンで行われたGWAS結果を参考にしました。高血圧の基準については、1)収縮期血圧が130mmHg以上、2)拡張期血圧が85mmHg以上、3)降圧剤の服薬のいずれかに該当する者としました。 続きを読む

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メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連:日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究

研究ファイルNo.79:メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連

 メタボリック症候群は、腹部肥満、血圧高値、脂質異常症、高血糖など心血管疾患の危険因子が集積している状態です。メタボリック症候群は、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクが高く、現在、我が国のみならず世界中で大きな公衆衛生上の問題となっています。しかし、これまで、メタボリック症候群とがん死亡率の関連性に関する疫学研究では一致した結果は得られていません。

 近年、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満という概念が提唱されています。肥満を、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満に分類することは、慢性疾患の発症リスクの高い、もしくは低い肥満者のサブグループを特定するのに有用である可能性があります。これまでのコホート研究では、代謝的に不健康な肥満は代謝的に健康な肥満よりも心血管疾患および全死因死亡のリスクが高いことが報告されています。

 本研究では、J-MICC研究において、メタボリック症候群とその構成要素ががん死亡率と関連しているかどうか、また、肥満と代謝的な健康状態によるがん死亡のリスクについても検討しました。

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授乳を行うことはメタボリック症候群を予防するか:横断研究

研究ファイルNo.78:授乳はメタボリック症候群を予防するか

 メタボリック症候群は肥満、高血圧、血中コレステロールの異常(脂質異常症)、高血糖から成り立つ状態であり、心疾患、がん、腎臓病、早期死亡などの一因とされています。そして、子供に授乳を行った経験(授乳歴)のある女性では、このメタボリック症候群が生じにくいことが報告されています。しかし、授乳を行うことはメタボリック症候群を予防しないとする報告もあり、これまでその効果について明確な結論は出ていませんでした。また、授乳を行うことは糖尿病や心疾患を予防するものの、年齢とともにこの予防効果が弱まる可能性があることも示されています。そこで今回の研究では、①授乳を行うことはメタボリック症候群を予防する効果があるのか、②この予防効果は一部の年齢に限られるのかを検討しました。

 今回の研究では、J-MICC研究の第1回目調査(ベースライン調査)に参加した、35–69歳の出産歴を持つ女性(11,118名)を対象としました。授乳歴、メタボリック症候群、その他の要因については、第1回目調査時に同時に測定を行いました(横断研究と呼ばれる研究方法です)。授乳歴については、子供1人あたりの最長授乳期間、授乳した子供の数、総授乳期間(最長授乳期間と授乳した子供の数を掛けることで算出)の3つで評価しました。また、授乳の予防効果が対象者の年齢層で異なるかを検討するために、対象者を55歳未満と55歳以上の2群に分けて統計解析を実施しました(先行研究の多くで対象者の年齢の平均値が55歳未満であり、55歳以降での授乳の効果が明らかではなかったためです)。 続きを読む

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朝食欠食および短時間睡眠とメタボリック症候群との関連についての横断研究

研究ファイルNo.77:朝食欠食・短時間睡眠とメタボリック症候群との関連

 朝食を欠食する人や睡眠時間が短い人は太りやすいことがこれまでの研究で報告されています。それでは、メタボリック症候群(MetS)との関連はどうでしょうか。MetSは肥満や代謝異常など、心血管疾患の危険因子が集まった状態を指します。これまでに短時間睡眠とMetSとの関連は報告されていますが、朝食欠食との関連についての報告はあまりありません。また朝食欠食に短時間睡眠が組み合わさることによりMetSに影響があるかどうかは明らかではありません。

 そこで、私たちは日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)のベースライン調査に参加された方のうち、解析に必要なデータがそろっていて、心疾患や脳卒中の既往がなく睡眠薬を服用していない29,780名(男性14,907名、女性14,873名)を対象として、朝食欠食の有無および1日の平均睡眠時間とMetS有病割合との関連について男女別に調べました。またMetS構成因子(肥満、血圧高値、中性脂肪高値、HDLコレステロール低値、血糖高値)ごとの関連も評価しました。朝食欠食者は「朝食の摂取頻度が週6日未満の者」と定義しました。また睡眠時間については、6時間未満(短時間睡眠)、6~8時間未満、8時間以上(長時間睡眠)の3群で対象者を分けました。解析では、朝食欠食なし群および睡眠6~8時間未満群を基準群としました。

 解析の結果、男性の朝食欠食および短時間睡眠はMetS有病割合と正に関連していました(図1および2)。女性では本関連は観察されませんでした。また朝食欠食の有無と睡眠時間を組み合わせた解析では、MetS有病割合との関連は男女ともに大きく変わりませんでした。MetS構成因子ごとの解析では、朝食欠食および短時間睡眠は男女ともに肥満と正に関連していました。本関連は、食事の質の指標(栄養パターン)を調整することによって有意ではなくなり、食事内容の影響が大きいことが分かりました。 続きを読む

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両親に高血圧の方がいる人の体重が20歳より10kg以上増えた場合、その人の高血圧のリスクは4倍以上に高まる

研究ファイルNo.76:体重増加と両親の高血圧の組み合わせによる高血圧のリスク

 成人の体重増加は高血圧のリスクです。また両親に高血圧の方がいる場合、自分も高血圧になりやすいことが分かっています。それでは両親に高血圧の方がいる人の体重が増えた場合、その人の高血圧のリスクはいっそう高くなるのでしょうか。

 私たちはJ-MICC研究に参加された約4万5千人について、成人後の体重増加と両親の高血圧を組み合わせて、高血圧の有病率を比べました。その結果、体重が20歳の時より10kg以上増えていて、かつ両親のどちらかに高血圧の方がいる場合、高血圧のリスクが2倍以上、そして両親どちらも高血圧である場合には4倍以上もリスクが高くなることがわかりました。このことは現在の体重が正常範囲であってもあてはまりました。

 もしあなたのご両親に高血圧の方がいらっしゃれば、そして体重が20歳の時から10kg以上増えていれば、仮にあなたの今の体重が正常範囲内であっても、高血圧には要注意です。もしかすると少しダイエットしたほうが健康にいいかもしれませんね。 続きを読む

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血糖指標HbA1cに対する身体活動効果の主要栄養素摂取状況による違い

研究ファイルNo.75:HbA1cに対する身体活動と主要栄養素摂取の交互作用

 厚生労働省による令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は、男性19.7%、女性10.8%であり、全国で1000万人以上と推計されています。糖尿病に関連する年間の医療費は1兆2000億円以上とされ、健康への影響はもちろんのこと、社会経済的にも大きな負担となっています。糖尿病の予防と治療には、健康的な食事や身体活動を組み合わせて行うことが推奨されています。しかし、糖尿病予防における、食事と身体活動それぞれの種類や量に関する知見は一致しておらず、食事と身体活動がどのように影響し合うのかは明らかではありません。そこで本研究では、血糖コントロール指標のひとつであるHbA1cに対する身体活動の効果が、主要栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)の摂取状況によって異なるのか検証しました。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)に参加していただいた非糖尿病の一般住民55,084人を対象に分析を行い、HbA1cに対する身体活動の効果は、炭水化物や脂質の割合によって異なることが分かりました(図1)。高炭水化物および低脂質摂取者は、低炭水化物および高脂質摂取者に比べて、身体活動が増えることによるHbA1cが下がる効果がより顕著でした。本結果は、質問紙によって調べられた一時点での主観的な身体活動に基づくものですが、活動量計を使って客観的に身体活動を測定した6,881人における5年間の追跡調査でも同様の結果を認めました。 続きを読む

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J-MICC研究参加者におけるHDLコレステロール値に対する喫煙、飲酒、および遺伝的要因の人口ベースの影響

研究ファイルNo.74:HDLコレステロール値に対する喫煙、飲酒、および遺伝的要因の人口ベースの影響

 HDLコレステロール(HDL-C)は、いわゆる善玉コレステロールとして、動脈に沈着したコレステロールを取り除いて、肝臓に戻す働きを担っています。そのため、HDL-C値が低いと動脈硬化が進むことになります。生活習慣はHDL-C値に影響を与え、特に喫煙は値を下げ、逆に飲酒は上げることが報告されています。遺伝子多型で測られる体質もHDL-C値に比較的大きな影響を与えることが報告されていますが、それぞれの影響の大きさを詳細に比べた研究はありません。そこで、日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究のデータを用いて横断的解析を行い、低HDL-Cに対する喫煙、飲酒、遺伝的要因の人口ベースの影響を推定しました。

 対象者は、ゲノムワイド関連研究(GWAS)として、遺伝子多型の網羅的解析とHDL-C値の測定が行われている35~69歳の男女11,498人です。HDL-C値におけるGWASの全研究結果がリストアップしてあるGWASカタログからゲノムワイドな有意性を有する65個のHDL-C関連遺伝子多型をまず選び、その中から7つの代表的な遺伝子多型が選ばれました(図1)。人口ベースの影響は、人口寄与割合(PAF)を用いて、定量的に見積もりました。 続きを読む

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閉経前後における妊娠出産回数と高血圧・肥満との関連

研究ファイルNo.73:妊娠出産回数と高血圧

 女性は妊娠出産の度に、体内の血液量や血圧が変化します。そのため、妊娠中に妊娠高血圧症候群等の合併症があったかどうかだけでなく、妊娠出産の回数も将来の心血管疾患の発症に影響を及ぼすと考えられています。また、これらの影響が閉経前・閉経後により異なる可能性が指摘されています。

 本研究では、高血圧、また高血圧と関連のある肥満について、妊娠出産回数とどのような関連があるかをJ-MICC研究のベースラインデータを用いて検討しました。対象者は、J-MICC研究の全女性対象者のうち、妊娠出産回数、血圧、BMI等のデータが揃っている35歳から69歳の女性24,558名です。高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または降圧薬服用のいずれかを満たす場合、肥満は、BMI 25kg/m2以上の場合としました。対象女性のうち、高血圧の人は28.6%、肥満の人は17.6%でした。

 妊娠出産回数を0回、1回、2回、3回以上の4グループに分けて、高血圧・肥満との関連をそれぞれ検討しました。また、閉経の有無によりその関連が異なるかを調べるために、閉経前(質問票に「閉経前」または「閉経間近」と回答)、閉経後(質問票に「閉経後」と回答)の2グループに分けた解析も行いました。 続きを読む

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中高強度の身体活動と座位行動は独立して腎機能と関連:横断研究

研究ファイルNo.72:不活動な生活の改善で慢性腎臓病を予防できる可能性

 近年、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)という腎臓の機能低下が慢性的に続く病気が増えてきています。CKDは放置すると末期腎不全となり人工透析や腎移植が必要となる他、心臓病や脳卒中などの疾患にもかかりやすいことが明らかになっています。CKDの危険因子は加齢や肥満、高血圧ですが、予防因子についての知見は十分でありませんでした。

 そこで、J-MICC研究14地区のベースライン調査に2004-2013年に参加された、35歳から69歳の66,603人の方々ついて、座って過ごす時間(座位時間)とCKDの関連を調べました。さらに、座位時間を中高強度の身体活動に置き換えた場合の予防効果についても推計しました。 続きを読む

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日本人における肉摂取量に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)

研究ファイルNo.71:肉摂取量のゲノムワイド関連解析(GWAS)

 いろいろな食品の摂取嗜好には遺伝の関与が指摘されています。これまでの我々および他の日本の研究者の結果からALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)2遺伝子変異rs671(遺伝子変異のID)があると魚摂取と負の関連があり(すなわちお酒を飲めないヒトは魚摂取量が少ない)、逆にコーヒー摂取量とは正の関連があることがわかりました。またお菓子など甘い食べ物の摂取量とは正の関連があるものの、酒の摂取量で調整すると遺伝子変異の影響は消失しました。肉摂取量に関するGWASは欧米人を対象とした研究が1つあり、29の独立した遺伝子変異が主成分分析による肉摂取傾向と関連することを示しましたが、日本人を対象とする研究はありませんでした。

 そこで今回、私たちはJ-MICC研究に参加された約1万4千名の研究参加者の中から総食事摂取量が1日500~5,000kcalの範囲外の人などを除外した14,076人を選び出し、アンケートデータをもとに半定量食品頻度法で計算したエネルギー摂取量1000kcal当たりの肉(トリ、ブタ、ウシ肉およびレバー、ハム、ベーコンなどの総量)摂取量と約850万か所の遺伝子変異との関連をゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法で網羅的に調べました。統計上の調整因子として年齢、性、集団階層化を補正するための遺伝子主成分1-10を用いました。加えて男女別解析も行いました。 続きを読む

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